(新潮社・1836円)
橋本治の小説『草薙(くさなぎ)の剣』は本年の3月下旬に刊行されたが、手にするのが遅れ、半年以上の間を置いた書評になってしまった。それでもなお取り上げるのは、多くの人に読んでもらいたいからである。傑出した作品である。
冒頭は不気味な夢の記述。その同じ夢を6人の男が見ているという設定だ。62歳の昭生(あきお)を筆頭に、豊生(とよお)、常生(つねお)、夢生(ゆめお)、凪生(なぎお)と10歳ずつ若くなって12歳の凡生(なみお)にいたる。いわば6人の主人公。非現実的な設定だが、直後に昭生の生年が昭和28年、1953年と明記され、夢を見ているこの段階が2015年であることが分かる。名前は記号的だが、歴史的事実からは逸脱しないという方針なのだ。いや、10歳間隔でほとんど座標のように配置されたこの6人の眼あるいは生活から、日本の戦後史を描き切ろうとする設定であることが分かる。
この試みは見事に成功している。6人の生活というより、その父母、祖父母に遡(さかのぼ)って体験が語られるのは、人生とはなかば境遇によって決められるからである。第一章「息子達」では、昭生の父母、兄が語られ、昭生とほぼ同世代の常生の父母が語られるが、戦中から戦後へ、朝鮮戦争、テレビ本放送、東京オリンピック、学生運動、オイルショックといった1950年代、60年代、70年代のあらましが遠景として粗描される…
この記事は有料記事です。
残り884文字(全文1494文字)
毎時01分更新
東京都議選(定数127)は6月25日告示、7月4日投開票と…
第164回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が20…
冬の青空が広がる東京・有楽町マリオンの前に、パネル写真が並…