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@上海・中国観察

音楽家・谷村新司さんが語る「日本と中国」

ステージで「昴」を歌う音楽家の谷村新司さん=上海市内で2018年11月8日、工藤哲撮影

 1980年代から中国とのつながりを持ち、上海音楽学院名誉教授でもある音楽家の谷村新司さん(69)が8日、上海市内で毎日新聞のインタビューに応じた。日中平和友好条約締結40周年の節目に北京や上海でコンサートを開いた谷村さんは「国と国の政治的な関係がどうあろうと、次の世代同士が信頼関係を持って交流できる場づくりをしていくのが自分の役目」とし、中国やアジア各国との音楽交流への意欲を語った。

 谷村さんはこの日、JR西日本上海代表処設立15周年の記念イベントで特別ゲストとしてステージに立ち、中国で根強い人気がある「いい日旅立ち」や「昴」を熱唱。「中国の皆さんとの長い縁が今もこうして続いています。会場の皆さんからの熱い思いが伝わってきました」と語った。【工藤哲】

 --中国との長年の交流が続いています。

 初めて訪中したのは81年の北京・工人体育館のアリス公演です。北京で高い建物といえば北京飯店くらいしかありませんでした。それから37年がたちますが、気がつけばそんな長さになっていた、という感じです。その時アリスの曲を聴いてくれた中国の若者たちが50代、60代になり、その子供の世代の人も私のコンサートに来てくれます。中には、地方の街から1日かけて列車で上海まで来たという人もいます。ありがたいことです。

 --今年は日中平和友好条約締結40年という節目の年です。

 政治や経済の面では、それぞれが自分の国のことを一番に考えてやっていくのが基本なので、関係が良い時もあれば、ぶつかる時もあります。ただ、文化の交流はどんな時でもダイレクトに人の心に響いていくものなので、これだけは今まで通りどんどん続いてほしい。自分が、次の世代のための懸け橋になれるような活動をしていきたいと思っています。

 --日中関係が難しい時期もありました。

 確かにそうですが、そういう時期でも僕らは中国でコンサートをしてきています。どんな状況でも僕らのやることは変わりません。すべてがうまくいくわけではない状況もありますが、だからやらない、ということにはなりません。

 国の関係が悪化しても、国民全員が悪い感情を持っているわけではなく、大半の人は冷静に見ています。マイナスの面のみをメディアが大きく取り上げることは必ずしも良いとは限りません。関係が悪くなると、中国に住む日本人、日本に住む中国人が一番つらい思いをすることになります。

 僕は「その国に1人好きな人ができたら、好きな国になる」といつも思っています。どんなニュースが流れ、何があっても、好きな人がいるなら、その国は自分にとって大事な国なんです。しっかりした信頼があれば、何が起きても関係はつながっていくものだと思います。

 僕らが81年に中国に来て、その後もアジアの国々を回りながら最初に学んだことは、日本の常識を無理やり相手の国に持ち込むべきではないということでした。その国にはその国のやり方、伝え方があります。そこでできるベストを尽くし、少しずついいものができるように一緒にやっていきましょう、ということをずっと続けてきました。その国を訪れるなら、その国が大切にしていることを学ぶ。僕らは旅をしながらそれを知ることができたので、とてもラッキーだったと思います。

 --上海の学校で教壇に立たれましたが、近年の上海の変化をどう見ますか。

 最初に来たのが90年代前半で、至る所で公共工事をしていたのが印象的でした。その後、今ではまるでニューヨークみたいに高層ビルが並ぶ都市になりました。上海の人たちは活気があって明るく、僕が生まれ育った大阪の街や人の気質とすごく似ている感じがして親しみがあります。来るたびにいつも元気をもらえる感じがしますね。

 上海音楽学院で2004年から4年間教えました。当時僕が伝えたいと思っていたのは、音楽というのは一瞬で人の心に入り込んでいくものなので、「心を込めて曲を作ってほしい」ということ。そして、「何を伝えたいのか、ちゃんと詞の中に思いを込めてほしい」ということです。

 僕は「日本の音楽」「中国の音楽」と分けて考えたことは一度もありません。作り手が伝えたいことが聴き手の心に響くことで、かけがえのないものになります。「音楽に国は関係ない」と生徒に伝えてきました。

 当時の教え子はその後、シンガポールで音楽の先生になったり、上海で作曲家として活躍したり、という人もいます。一方で上海で国語の先生になったり、ミュージカルをやっている子もいたりさまざまです。今も連絡をくれたりします。

 --日本を訪れる中国人が増えています。

 銀座など東京各地を歩いていると、ここ数年中国語が普通に聞こえてくるようになりました。実際に来ることで初めて分かる日本の良さもあるでしょうし、その体験を聞いた家族や知り合いが日本に来たいと思うようになることもあるでしょう。日本を旅することで出会った人とか、感じたことがきっと新たな刺激になっているはずです。

 僕が作詞作曲し、山口百恵さんが歌った「いい日旅立ち」は旧国鉄のキャンペーンソングでした。鉄道旅行は僕にとって大切なものですし、JR西日本さんとの縁が長年続いています。

 関西出身なので、西日本には特別な思い入れがあります。京都や瀬戸内、山陰地方などは四季に富んでいて、実際に見てみればきっと新たな発見があるはずです。「三都物語」の曲はそんな思いでつくりました。実は「三都物語」のメロディーは上海で着想を得たものです。

 東京が北京とのつながりが深いとすれば、大阪や西日本は上海と雰囲気が似ている、と言えるのかもしれません。

 日本から思い切って中国に来てみれば、きっと大きな刺激になるはずです。中国人には独特の人間関係の距離感や義理堅さもあります。その場所に来たことがなければ、想像力を働かせることも簡単ではありません。

 --今後の抱負を教えてください。

 来年、メンバー3人が70歳になるのに合わせてアリスが再始動します。中国公演も実現させたいですね。同時に、中国やアジアの若いアーティストを日本に招いて、多くの活躍の機会を作っていきたいとも思っています。

工藤哲

上海支局記者 1999年入社。盛岡支局、東京社会部、外信部、中国総局(北京、2011~16年)、特別報道グループ、外信部を経て、2018年4月から現職。北京駐在時には反日デモや習近平指導部が発足した第18回共産党大会などを取材してきた。著書に「中国人の本音日本をこう見ている」(平凡社新書)など。

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