街の力

「大大阪時代」伝える建築

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 大阪が世界的な都市として大きく飛躍した、大正時代から昭和初期にかけての「大大阪時代」。面積や人口、工業生産額でも日本一となり、かつての「天下の台所」から、「東洋一の商工地」と呼ばれる近代的な産業都市へと変貌を遂げた。大衆文化の隆

盛に支えられ、大阪毎日新聞にとっても基盤を固めた時期だった。活況を呈した当時の面影を、現存する建物などから探る。【大道寺峰子】

(上)発売当初のミゼットハウス、(下)大和ハウス工業の最新の戸建て住宅「ジーヴォシグマプレミアム」=大和ハウス工業提供
(上)発売当初のミゼットハウス、(下)大和ハウス工業の最新の戸建て住宅「ジーヴォシグマプレミアム」=大和ハウス工業提供

職住併せ持つ革新性

01 船場ビルディング 1925年、中央区淡路町2

中庭が印象的な船場ビルディング=大阪市中央区淡路2
中庭が印象的な船場ビルディング=大阪市中央区淡路2

 オフィスと住宅を併せ持つ革新的な建物で、当時の大阪毎日新聞では「モダン長屋」と表された。1階が地下フロアと2層式のメゾネット住居、2~4階が事務所として使われていた。中庭には、繊維産業の中心地だった船場らしく、布地を積んだ馬車などが入れるように木製ブロックやスロープが設けられている。

赤レンガ 辰野金吾ら設計

02 市中央公会堂 1918年、北区中之島1

100周年を迎えた市中央公会堂=大阪市北区中之島1で
100周年を迎えた市中央公会堂=大阪市北区中之島1で

 赤レンガとアーチ状の屋根や小ドームが印象的な地上3階地下1階建ての建物。株式仲買人の岩本栄之助の寄付を受け、コンペで選ばれた案をもとに、東京駅などで知られる建築家・辰野金吾や大阪の建築家・片岡安らが実施設計を手掛けた。ヨーロッパで流行したネオルネサンス様式を基調に、バロックの要素などが取り入れられた。

陸の客室 貸しビル先駆け

03 ダイビル本館 1925年、北区中之島3

大大阪時代の建物を再現した低層階と、ガラス張りの高層階が個性的なダイビル本館=大阪市北区中之島3で
大大阪時代の建物を再現した低層階と、ガラス張りの高層階が個性的なダイビル本館=大阪市北区中之島3で

 ネオロマネスク様式の8階建てで、商船会社などの出資で建てられたことから、客船を想起させるやや変形の建物になっている。正面玄関のアーチには少女とワシの彫像、周囲の円柱には動植物の浮き彫りが施された豪華な造り。英国などの領事館も入居し貸しビルの先駆けだった。

 その後建て替えられたが、6階までの低層部に当初の姿が再現され、7~22階はガラス張りの建物になっている。

拡張御堂筋 ミナミ格調高く

04 南海ビル 1932年、中央区難波5

高島屋が入る南海ビル。奥に「なんばスカイオ」が完成し、新たな印象を与える=大阪市中央区難波で
高島屋が入る南海ビル。奥に「なんばスカイオ」が完成し、新たな印象を与える=大阪市中央区難波で
つぼ型の飾りを配した壁付円柱や、アーチに囲まれた三連窓など随所に装飾が施されている=大阪市中央区難波で 拡大
つぼ型の飾りを配した壁付円柱や、アーチに囲まれた三連窓など随所に装飾が施されている=大阪市中央区難波で

 なんば駅が日本初の私鉄駅として開業したのが1885年。南海電鉄の前身である阪堺鉄道によるもので、それから約50年後の1932年に、4代目駅舎として建てられた。テラコッタタイル張りのコリント様式で、つぼ形の飾りを配した壁付け円柱や、アーチに囲まれた三連窓など随所に装飾が施され、華やかで格調高い外観になっている。当初は西側に南海鉄道のオフィス、東側に高島屋が入った。

 京都で呉服商として創業された高島屋が、本格的な百貨店として堺筋に長堀店を新築オープンしたのが22年。当時の堺筋には市電が走り、三越、松坂屋などの百貨店も建ち並びにぎわっていた。しかし、その2年後に御堂筋の拡張計画が発表された。29年には、世界初のターミナルデパートとして梅田に阪急百貨店が開店という影響もあり、危機感を抱いた高島屋は難波進出を決断。日本初の冷暖房装置や、それまで着物姿だった女子社員にワンピース型の制服を導入するなど、時代をリードした。

 今年10月には南側に、駅と直結した地上31階建ての複合ビル「なんばスカイオ」が誕生。時代とともに変遷しながら、常にミナミの顔として存在を示し続けている。

耐震・耐火 マヤ・インカ風

05 芝川ビル 1927年、中央区伏見町3

関東大震災の影響で耐震・耐火を考えて建てられた芝川ビル=大阪市中央区伏見町3で
関東大震災の影響で耐震・耐火を考えて建てられた芝川ビル=大阪市中央区伏見町3で
建築当時アメリカで流行していたマヤ・インカ風の装飾が外観や室内に施されている=大阪市中央区伏見町3で 拡大
建築当時アメリカで流行していたマヤ・インカ風の装飾が外観や室内に施されている=大阪市中央区伏見町3で

 不動産業を営んでいた芝川又四郎は海外の視察経験が多く、当時米国で流行していた南米マヤ・インカ風の装飾を採用。4階には屋上テラスを備える。芝川は関東大震災を踏まえ、建築家の片岡安の講演で知った、耐震・耐火性に優れた鉄筋コンクリートをいち早く導入した。また昭和初期には「芝蘭社(しらんしゃ)家政学園」という女子教育の場としても使われていた。地下1階~地上4階で、現在も飲食店などが営業している。

重厚、端正、財閥の威信

06 三井住友銀行本店 1926~30年、中央区北浜4

ライトアップされ、川面に映える三井住友銀行本店=大阪市中央区北浜4で、大道寺峰子撮影
ライトアップされ、川面に映える三井住友銀行本店=大阪市中央区北浜4で、大道寺峰子撮影

 住友銀行(現三井住友銀行)のほか住友各社が入居する「住友ビルディング」として建てられた。淡いクリーム色の外壁が堂々たる大規模建築。イオニア式と呼ばれる神殿風の石柱を配した玄関や、米国製ガラスを使った内部天井のステンドグラスなど、重厚で端正かつ上品な印象を与える。別子銅山で礎を築いた住友らしく、門扉や照明、雨どいまでブロンズ製で仕上げられた。当初の計画では7階建ての予定だったが、工事途中に起こった関東大震災の影響で5階建てに変更された。

 完成時期は第1期(北側)が26年、第2期(南側)が30年。金融恐慌とほぼ同時期で、多くの中小銀行が淘汰(とうた)される中、財閥系銀行の力を印象づけた。

財界人交流深めた「自由様式」

07 大阪俱楽部 1924年、中央区今橋4

大大阪時代から現在に至るまで多くの財界人が交流を深めている大阪倶楽部=大阪市中央区で、萩原滋樹撮影
大大阪時代から現在に至るまで多くの財界人が交流を深めている大阪倶楽部=大阪市中央区で、萩原滋樹撮影

 大阪俱楽部(くらぶ)は1912年に設立された会員制社交俱楽部。屋上には、関西で初のインドアゴルフ練習場が設置された。現在に至るまで、多くの財界人が交流を深めている。

 設計は片岡安設計事務所の新進気鋭の安井武雄。素焼きタイルの外壁に、石のアーチなど南欧スタイルを取り入れつつ、トーテムポール風の石柱や唐草の縁取りなど細部の彫刻には東洋・中東のモチーフが施され、安井の自由様式の代表例とされる。

栄華の面影 進取の気風

大阪府立大特別教授 橋爪紳也さん

橋爪紳也・大阪府立大特別教授=大阪市内で、大道寺峰子撮影 拡大
橋爪紳也・大阪府立大特別教授=大阪市内で、大道寺峰子撮影

 1925(大正14)年、大阪市は隣接する町村を大合併し、南は大和川、北は神崎川、西は兵庫県境までを市域とした。人は当時の東京市を上回る200万人超えとなり、世界第5位を争う大都市、いわゆる「大大阪」が誕生した。

 極めて短期間に都市が成長を遂げる中、都市計画が敢行された。特に、幹線道の整備と区画整理事業による宅地の確保が根幹だった。将来的に市街化が想定される地区を市域に取り込みつつ、郊外の住宅地が急増する人口の受け皿になった。通勤・通学というライフスタイルが出現。電鉄会社が四方に延び沿線開発を競い合い、大阪独自の私鉄文化が生まれた。また電気の供給も進展し、各家庭に電化製品が入り始めたのもこの時期だ。

 一方、都心における象徴的な事業が御堂筋の拡張である。唯一の「廣路(こうろ)」として、幅6メートルだった街路を、幅員44メートル、長さ4キロのメインストリートにした。同時に地下を貫通する市営の高速鉄道、現在の大阪メトロ御堂筋線も建設された。米国から最新の技術が導入され、高層のオフィスビルも建設された。従来の呉服店は百貨店に改築、ターミナルデパートも誕生した。世界的な流行もいち早く採用、装飾性豊かに華やかさを加味したデザインが、商都大阪における建築の特徴であった。

 また大阪の個性も重視された。例えば、御堂筋の街路樹に東洋原産のイチョウが選ばれたのも「大阪らしさ」へのこだわりである。大大阪記念博覧会をきっかけに造られた大阪城の復興天守閣のように、歴史的様式を最新の建物に応用した事業もユニークだった。大阪はダイナミックに変わりつつも、経済主導の都市という伝統を守り続けてきた。その歴史の中で最も栄えた時期の一つが、誰もがわが街を「東洋一の商工地」と誇らしげに語ることができた大大阪の時代だった。現在も都心に散在し、利用され続けるレトロ建築に、往時の人々の進取の気風を感じ取ることができる。


■人物略歴

はしづめ・しんや

 1960年大阪市生まれ。大阪府立大研究推進機構特別教授、同大観光産業戦略研究所所長(都市計画学)。近く出版予定の「大大阪モダニズム遊覧」(芸術新聞社)など著書多数。

(大阪毎日新聞発行130年記念別刷)

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