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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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内輪の不正を告発する“内部通報”は江戸時代にもあった…

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 内輪の不正を告発する“内部通報”は江戸時代にもあった。その最大級の事件が、福岡藩主・黒田忠之(くろだただゆき)の謀反(むほん)の企てを家老が幕府に訴え出た「黒田騒動」だろう。誰が考えても、これがただですむわけがない▲だが幕府の調べの結果、忠之の謀反は否定され、所領は一旦没収の後に再安堵(あんど)された。一方、家老・栗山大膳(くりやまだいぜん)も虚偽の告発で断罪されることもなく、盛岡藩預かりとなって幕府から扶持(ふち)までもらった。いかにも臆測を呼ぶ決着である▲忠之の失政による藩取りつぶしを恐れた大膳が先手をとって幕府に訴え、改易(かいえき)を未然に防いだ--こんな大膳忠臣説が後世に広がるが、もちろん異論もあって真相は謎だ。で、内部通報から始まったこちらの事件も臆測の渦中にある▲先日、カルロス・ゴーン日産自動車会長の電撃逮捕に驚いていたら、すぐに日産社長が会長の不正を糾弾したのにも仰(ぎょう)天(てん)した。聞けば同社内では内部通報から検察との司法取引を経て、ゴーン容疑者への包囲が固められていたようだ▲いきおい「クーデターか」の声が飛び交い、会長と日産経営陣との確執(かくしつ)が取りざたされる。会長がルノーとの経営統合を計画し、日産経営陣に猛反発されていたと報じたのは英経済紙で、事件の背後に暗闘があったのをほのめかした▲陰謀論めいた臆測が交わされるのも、事件の地球規模の衝撃ゆえだろう。捜査や司法手続きの公正さも全世界が見つめるところとなる。後世に異論を残さない真相の解明が求められるカリスマの失墜である。

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