メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

欧州ニュースアラカルト

ごみ釣りツアーがビジネスに 「廃業」の日を望むオランダの社会的企業

 最終目標は、廃業。そんな社是を掲げて成長を遂げる企業がある。

 アムステルダムの運河でごみ釣りツアーを運営するプラスチック・ホエール社。集めたプラスチックごみをボートやデザイン性の高い家具にリサイクルして新たな価値を生み出している。目指すのは世界の水路からプラスチックごみが無くなる日だ。

 11月上旬の晴れた午後、同社のボートに乗ってアムステルダムの中心で“釣り”をした。

アムステルダムの運河でごみ釣りツアーに参加する人たち。船尾に立つのはガイドのデ・ボートさん=アムステルダムで2018年11月6日、八田浩輔撮影

乱獲は歓迎

 魚取り網を持った8人を乗せたボートは中央駅近くの船着き場を離れた。

 アムステルダムは何度訪れても美しい街だと感じる。パリや私が暮らすブリュッセルと比べると路上のごみがとても少ない。扇状に広がる世界遺産の運河網も水質は悪いが、それほど多くのごみが浮いている印象はなかった。

運河から魚取り網ですくい上げたペットボトル=アムステルダムで2018年11月6日、八田浩輔撮影

 そんな思いを見透かしたように、船尾でガイドを務めるケース・デ・ボートさん(63)が言った。「ごみが多いように見えないでしょう。でも2時間後はここにいっぱいですよ」。目の前には釣ったごみを分別するための袋が取り付けられている。

 運河が入り組む中心部に入ると、水面のごみが気になり始めた。ペットボトルやスナック菓子の袋、空き缶などが次々と釣れる。ファストフード店の飲み物容器の多くはプラスチック製のふたとストローが付いたままだった。

 ここでは「乱獲」も歓迎だ。参加者たちの会話は次第に減り、時には上半身を船外に乗り出して網を持った手をごみに伸ばす。意図せず運河に落ちたとみられるごみも少なくなかった。未開封の缶ビールやカット野菜、おもちゃの電話やアヒル。マリフアナが入った小袋が釣れた時には笑いが起きた(アムステルダムでは専門店での販売が認められている)。過去には偽札の束が詰まった袋を引き上げたこともあるという。

 結局この日は約2時間で50リットル程度のごみ袋4枚がいっぱいになった。「きょうは平均よりも多い。『大漁』です」とデ・ボートさん。ツアーを終えた地元の3Dアーティスト、ハーボイエ・ヨジックさん(27)は「想像以上に多く釣れて満足しています。本当に楽しかった。多くの人たちが参加して、ごみから新しい価値を生む。とても良いアイデアだと思います」と話した。

ごみに価値を

 プラスチック・ホエールは2011年、マリウス・スミットさん(45)が地元のアムステルダムで創業した。メディア企業などでマーケティングを担当していたスミットさんが起業したきっかけは、30代半ばに旅行で訪れたアジアの国々で目にしたプラスチックごみ。「最も美しい場所だった」というインドネシアのカリマンタン島(ボルネオ島)の海岸は、台風が近づいた朝に波が運んだプラスチックごみで覆われた。

 「プラスチックごみの問題について何かをしなければいけないと考えたのです。私はそれまで『プラスチックスープ』という言葉すら聞いたことがありませんでした」

 プラスチックスープとは1990年代後半、太平洋を航海していた米国の船乗りチャールズ・モア氏が、細かく砕けたプラスチックごみがスープのように高い密度で集まる海域を見つけて呼んだ言葉だ。海流と風の影響で漂流物がたまる一帯は「太平洋ごみベルト」とも呼ばれ、プラスチック汚染への社会的な関心を高める発見となった。

主要部分にリサイクル素材を使ったプラスチック・ホエール社のボート。「このボートはアムステルダムの運河のプラスチックで作られた」と説明が書かれている=アムステルダムで2018年11月6日、八田浩輔撮影

 スミットさんはプラスチックごみのリサイクル材を主要部に使った1台のボートで事業を始めた。収益は個人・法人を対象にしたごみ釣りツアーと会員企業からの協賛金。個人の参加料は1人30ユーロ(約3900円)だ。

 参加者と会員企業は年を追うごとに拡大し、ボートは11台に増えた。1台あたり8000本のペットボトルが必要になるという。事務所には社員12人を抱え、これに加えてフリーランスの船頭40人がツアーを支える。これまで運河からすくい上げたペットボトルは累計13万本。年内にはツアーの参加者が延べ1万5000人に達する見通しだ。

 今年に入り、オランダ国内の家具メーカーと協力して運河で釣ったプラスチックごみを再加工した高級路線のオフィス用家具の販売を始めた。同社のオフィスでも使われている長さ4メートルの会議用テーブルとセットの椅子は、オーク材と組み合わせた高級感ある仕上がりでデザイン性も高い。価格は「要相談」というが、協賛企業を中心に受注が相次ぎ、収益の2割程度を占めているという。世界遺産の運河のプラスチックごみが原料となることが付加価値を生んでいるのだ。

アジア進出へ

 肝心の運河の環境は改善されているのか。スミットさんの見方は冷静だ。「少しは良くなっているかもしれませんが、問題は大きく複雑で、少なくとも数年では変わりません。ただ、私たちの取り組みによってプラスチックごみ問題への関心は確実に高まっていると思います」

 アムステルダムは今、観光客の受け入れ限度を超えた「オーバーツーリズム」と呼ばれる状態にある。観光客は増え続け、人口85万人の都市に今年は国内外から年1800万人が訪れる見通しだ。多すぎる観光客、そして寛容な街のイメージに感化されてはめを外す一部の招かざる客に地元市民の不満は募り、観光税の引き上げや条件付きで民泊を規制するなど観光客抑制に向けた動きもある。ごみのポイ捨て対策も課題の一つに挙がる。

 プラスチック・ホエールが廃業する日は遠い。スミットさんは、状況を前に進めるためには、ごみの総量を減らすための使い捨て製品の規制やリサイクルシステムの改善など「複数の対策の組み合わせが必要」だと考える。「そして結局のところ、ごみの価値について考える文化の問題に行き着くのだと思います」

 スミットさんによると、プラスチック・ホエールはインドやインドネシアなどアジアでの事業展開を本格的に検討している。世界の沿岸部からは年480万~1270万トンのプラスチックごみが海に流れ出ていると試算され、主な汚染源はアジアの新興国とみられているからだ。これらの地域の水路や主要河川での廃棄物管理は、世界のプラスチックごみ対策の鍵を握る。「できる限り社会に大きなインパクトを与える場所を選びたい。私たちのビジネスモデルは、汚染がひどい場所ほど多くの経済的価値を生み出すことができるのです」【八田浩輔】

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. ペイペイ、「100億円あげちゃうキャンペーン」を13日で終了
  2. 客や取引先から過剰なクレーム…広がる「カスタマーハラスメント」
  3. 富田林署逃走その夜、留置場の当番警官「スマホでアダルト番組も見てた」
  4. QRコード決済 ソフトバンク系ペイペイ、「奪首」へ100億円還元 競争激化
  5. はやぶさ2 リュウグウの新画像公開 小型探査ロボが撮影

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです