SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『野の春』『谷口ジロー 描くよろこび』ほか

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今週の新刊

◆『野の春 流転の海 第9部』宮本輝・著(新潮社/税別2100円)

 まちがいなく今年一番の話題作が宮本輝『野の春』。自らの「父」をモデルに37年書き継いだ大河小説シリーズ『流転の海』が、この9作目でついに完結した。

 終戦直後の大阪闇市で小さな会社を始めた松坂熊吾50歳。この年に初めて授かった子どもが、著者自身を映した伸仁だ。本作では20年近い月日が流れ、熊吾は中古車会社を経営、妻子と別居し、女と暮らしている。

 物語は進み、伸仁の母・房江の描写の比重が大きくなり、世の流れも速度を増す。房江は「変わらないものなどなにひとつないのだ」と運命を受け入れ、大学へ通う息子と慎(つつ)ましく生きていく。人付き合いで奔走する熊吾はつねに多忙で、みな「自分の境遇に適した塒(ねぐら)」で奮闘努力する者たちばかり。

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