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余録

古代中国の「列子」に…

 古代中国の「列子(れっし)」に人間そっくりに歌ったり舞ったりする人形の話がある。周の穆王(ぼくおう)はその人形が侍女に色目を使ったと怒って、細工師の偃師(えんし)を殺そうとする。偃師は恐れて、人形をばらばらにしてみせた▲王が見ると心臓や肝臓などの内臓も、筋肉や骨、皮膚もみなそろっていた。それらは確かに木や皮、漆(うるし)などで作られているのだが、組み立てるとまた人間そっくりになる。穆王は「巧者は造物主と同じことができるのだ」と感嘆した▲さて、この人も「自分は造物主と同じことができる巧者だぞ」と言ってみたかったのだろうか。人の受精卵に「ゲノム編集」を施し、遺伝子を改変させた双子の女児が誕生した--そう主張する中国の研究者、賀建奎(が・けんけい)氏の発表である▲もちろん世界初のことだが、祝福の声はなく世界中から非難が殺到した。ゲノム編集とは遺伝子の切り張りで、生まれてくる人への応用は倫理的にも、安全面でも危険きわまりない。中国当局も「違法」として調査に乗り出すという▲昨日の香港での賀氏の発表には第三者の審査を受けたのか質問が相次いだが、あいまいな回答に終始した。プライバシーをたてに被験者の身元などの情報公開も拒んでいる。そもそも発表が現実の話なのかすら定(さだ)かならぬありさまだ▲中国の報道では、賀氏はバイオビジネスにも広くかかわる人物らしい。造物主のわざをお金に換えるもくろみに、命の誕生が委ねられるとしたら……。自らは意図せずに賀氏が世界に発した恐ろしい問いだ。

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