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北方領土めぐる政府答弁 国民向けの説明も誠実に

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 国民の理解と支持を得て外交政策を進める。そんな日本政府の方針が空虚に響く。ロシアとの北方領土交渉をめぐる政府答弁である。

 「政府のこれまでの姿勢は一貫しており、領土問題を解決して平和条約を締結する。この方針に一切変わりはない」。安倍晋三首相が今週、衆院予算委員会でこう答弁した。

 果たしてそうか。1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を行うことで日露首脳が合意してから初の国会での発言だが、従来の政府答弁から後退している。

 平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すと明記したのが日ソ共同宣言だ。会談に先立つ10月には「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と「四島の帰属」に言及していた。

 しかし、会談後は「四島」を強調しなくなった。プーチン露大統領は2島の主権がどちらに属するかは明確ではないと言い、残る国後島と択捉島の返還を拒んでいるとされる。

 返還を求める島の数について問われた首相は「交渉対象となる島々についてのコメントは差し控える」と述べた。北方四島をロシアが「不法占拠」しているという原則的な見解すら明言するのを避けた。

 戦後70年以上を経て解決していないのが北方領土問題だ。難しい交渉であるのは間違いなく、本格的な折衝を前に対立をあおりたくないという気持ちは理解できる。

 しかし、あいまいな姿勢では首相の真意はわからない。「両国が受け入れ可能な解決策」と言われても、ロシアペースで進む不安や交渉力への疑問が生じて不思議ではない。

 河野太郎外相は同じ委員会審議で「これから交渉するときに政府の考え方や交渉の方針を対外的に言うのは日本の国益にならない」と答弁した。基本的な考え方も示さないのでは、国民の理解は得られまい。

 「国民と共にある外交」をうたっているのは他ならぬ外務省だ。そのトップが国民不在で外交交渉をプロが独占した「旧外交」に拘泥しているように映る。

 外交は内閣の専権事項であっても条約は国会が承認する。世論の支持がなければ結実しない。国民に誠実に説明し意見を吸い上げて交渉に生かす。そのバランス感覚が必要だ。

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