- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
言語や文化の壁越え、外国人を優しく支援
◆スポーツ庁長官 鈴木大地氏/河本宏子氏 ANA総合研究所副社長/桜井俊氏 元総務事務次官/河合純一氏 日本パラリンピアンズ協会会長/川内美彦氏 東洋大教授
毎日新聞社のバリアーゼロ社会実現キャンペーン「ともに2020」などに提言してもらう「毎日ユニバーサル委員会」の第4回座談会が15日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。今回のテーマは「『外国人に優しく』という観点を」。今年は西日本豪雨や北海道胆振(いぶり)東部地震など災害が頻発し、訪日外国人らに避難情報などが行き届かず「災害弱者」となる問題が浮き彫りになった。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、どのような方策が取れるかなどについて意見交換した。【司会は小松浩・毎日新聞主筆、写真は竹内紀臣】
◆外国人障害者らを取材 課題と現状報告
ネットや点字新聞で情報発信
座談会に先立ち、外国人障害者らを取材した毎日新聞記者が最新のトピックスを報告した。
神崎修一・オリンピック・パラリンピック室記者 外国人障害者向けの観光サイト「アクセシブル・ジャパン」を2015年から運営するカナダ出身の37歳の男性、グリズデイル・バリー・ジョシュアさんを取材した。4歳から車いすで生活し、07年に来日して16年に日本国籍を取得した。サイトではホテルや観光地のバリアフリー情報を英語で発信している。例えば京都の清水寺は「最寄りのバス停からお寺まではかなり急な坂があるので、タクシーを利用した方がいい」などと紹介している。20年東京大会の課題を聞くと(1)バリアフリー対応のホテルが少ない(2)ホテルに英語の得意なスタッフが少なく言葉の壁がある(3)日本のおもてなしの心は素晴らしいがルールやマニュアルに縛られて柔軟性に欠ける--を挙げた。一方で先日、東京・築地のすし屋に入ろうとしたら段差のため車いすが入れず、店主が隣の店のテーブルを使えるように交渉してくれた。臨機応変な対応にジョシュアさんと友達はすごく感動して多くの人に伝えたいと思ったそうだ。
遠藤哲也・点字毎日編集長 視覚障害者に情報を届けたいという一心で毎週日曜日、A4判で60ページの点字新聞を発行している。点字専用の輪転機で印刷しているが、機械で製本すると点字が潰れるので一冊一冊、手で折っている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)全盛時代の「手作りのメディア」だ。4月から月1回、日本への留学経験があるモンゴル、スーダン、中国、バングラデシュの視覚障害者4人がリレー形式でつづるエッセー「海を越えて」を連載している。人間は情報の8割を視覚で得ると言われ、視覚障害者には情報が行き届きにくい。4人に「災害時に何が必要か」を尋ねると、独りぼっちにされた時の不安軽減を求める声が多かった。普段と状況が異なる災害時の避難所では、どこにいるのかを触覚などで把握できるよう、壁の近くに障害者向けの場所を確保するなどの配慮が必要であり、「外国人にも積極的に言葉を掛けてほしい」との声も聞かれた。非常時に使う言葉を統一し、外国人が普段から覚える取り組みの提案もあった。翻訳機が普及しているが、社会インフラでどこまでできるかの視点が大切だと思う。
山口一朗・オリンピック・パラリンピック室委員 14日に東洋大で、ヒューマンセンタードデザイン研究所(米ボストン)のバレリー・フレッチャー所長の話を聞いた。約20年間、何度も日本を訪問したが、東京には膨大な数の鉄道路線や駅があり、20年東京大会で訪日する外国人が東京の交通機関を使うのはとても難しい。また、日本のユニバーサルデザインについて書かれた大部分のものが日本語だけというのは非常にもったいない。その経験を他国と分かち合う方法を考える必要がある--という話をされていた。
河合氏 国内の常識再点検/川内氏 やさしい日本語で
小松主筆 外国人障害者らへの取材内容を報告してもらいました。付け加えますと、今年、特に多かった水害や地震で、災害時の外国人の困難な様子を書いた記事を発信し、コラムや社説などでもさまざまな課題があることを指摘しています。災害時に情報が届かず、最もしわ寄せを受けるのが障害のある外国人ではないかと思います。報告を踏まえ、外国人障害者が災害時でも日常生活の中でも、日本に来てどんなことに困っているか、あるいは何が必要か、できるだけ具体的に意見をいただき、社会に問題提起したいと思います。
河合純一委員 外国人や障害のある人が来日して、さまざまな課題がそれぞれの場面で起こっていると思います。日本で暮らす皆さんからすれば当たり前のことをできないことが多い。例えば僕がトイレに行きたい時、駅にあるのは分かるが、どこにあるか見つけられない。視覚障害があると、小学生ができるようなことでも、できない場合がある。言葉の壁があると、さらに困ってしまいます。日本なら、泊まったホテルのどこにコンセントがあるか分かりますが、海外に行くと同じ場所にあるわけではありません。
20年東京大会の時に地震が起きた場合、選手が選手村にいるとは限りません。震度1や2しか経験したことがない人にこうしましょうという紙を渡すだけで大丈夫なのか。起震車で地震を模擬体験させたほうがいいのか。そういうところを含め、自分たちが想像できる範囲外のバリアーもまだまだあるのではないでしょうか。20年東京大会を控え、ルールやマニュアルを再点検すべきだと思います。
小松主筆 20年東京大会でのマニュアル作りはどうなっていますか。
鈴木大地委員 20年東京大会では、間違いなく大勢の障害者の方がいらっしゃる。そういった方が安心して競技に取り組めたり、応援に来てもらったりできるような体制を整えないといけません。ひとたび災害が発生すれば、障害のあるなしに関わらず、身近な人たちと意思疎通を図りながら、隣に外国人や障害者の方がいれば手助けして一緒になって避難するような態勢作りも必要だと思います。そういう時にはスマートフォンが役立ちます。視覚が不自由な方には音や振動で知らせたり、耳の不自由な方なら光で知らせたりするとか。何が起こったのかをいち早く伝え、避難を促す仕組みが必要だと思います。
小松主筆 情報発信の点はいかがでしょうか。
桜井俊委員 障害者に限らず、外国人が日本に来られた時に災害が起これば、さまざまな困難に直面しますが、重要なのは、そういった人たちが移動手段や食事などの情報をきちんと入手できるか、音声を含めた情報の表示が適切になされるかどうかです。このところの災害もあり、政府は種々の対策を検討しているようですが、その中での外国人の声として、災害時に情報を入手するスマートフォンが使えないとか、Wi-Fi(公衆無線LAN)が使えないとか、あるいはスマホ用の電池がないなどがあります。情報手段の確保という観点で、その種のインフラ整備は日本人にとっても必要でしょう。
川内美彦委員 避難誘導のマニュアル作りに携わってきましたが、そこで強調されているのが、英語とか何語とかいう言語にしないで「やさしい日本語でいこう」という発想です。小学2、3年生で習うくらいの漢字と平仮名とカタカナを用いた表現です。例えば、大きな競技場で火事や地震が起きたら、やさしい日本語で「にげろ」などと指示をする。外国人がたくさんいたとしても、その中に日本語が少し分かる人が何人かいて、その人たちに伝われば、その人たちがまず避難行動を取り、みんな後に付いていく。そんなことで、情報提供の主体はやさしい日本語にしましょうというのが今の避難の考え方です。<23面に続く>
2020年東京五輪・パラリンピックを控え、毎日新聞社は「共生」をキーワードに、バリアーゼロ社会実現キャンペーン「ともに2020」を16年12月に始めた。この活動を社会のニーズに沿ってより有効に進めるため、17年2月に「毎日ユニバーサル委員会」を設置した。委員会は5人の有識者に本社の小松浩主筆を加えた計6人で構成。有識者からは、その時々の事象に沿って開く座談会で、それぞれの立場から意見や提言をもらう。議論の内容は、特集紙面で公表する。
■人物略歴
かわい・じゅんいち
早稲田大卒。先天性弱視のため15歳で全盲に。パラリンピック競泳で金5個を含む計21個のメダルを獲得。43歳。
■人物略歴
かわうち・よしひこ
横浜国大大学院修了。工学博士、1級建築士。工業高専在学中にスポーツ事故がもとで車いす生活に。65歳。
時系列で見る
-
暑さ回避拡大 ラグビー、自転車も時間変更 IOC検討
1577日前 -
2020年東京五輪・パラリンピックの機運を醸成しようと…
1577日前 -
1964年、東京五輪の高揚感じて 故・秋光さん所有 豊前市役所ロビーに展示 /福岡
1577日前 -
五輪旗、県内巡回始まる 27日まで、14市町村で公開 /群馬
1578日前 -
タイのボクシングチーム選手が合宿 ホストタウンの会津若松で3~8日 /福島
1578日前 -
車いすバスケ女子 日本代表候補、強化合宿 仙台 /宮城
1578日前 -
国際ボクシング協会運営の調査決定
1578日前 -
合宿候補地・高崎をカタール選手視察 /群馬
1579日前 -
キャンプ地、北区が覚書調印 ハンガリーと /東京
1579日前 -
毎日ユニバーサル委員会 第4回座談会(その1)
1579日前 -
毎日ユニバーサル委員会 第4回座談会(その2止)
1579日前 -
18年夏の気象データ提供 悪天候対策に
1579日前 -
「歓迎します」 ANOC総会開幕で首相
1579日前 -
クロアチア五輪委、事前キャンプで十日町市と協定 /新潟
1580日前 -
開会式で古式舞踊を 政府が関係団体に働きかけ /北海道
1580日前 -
北園、東京の原石 高校生で五輪、先輩に続け 万能型の「内村2世」
1580日前 -
首相「魅力ある五輪に」 ANOC総会が開幕
1580日前 -
東京五輪目指す16歳新星、北園 ユース五輪で5冠
1580日前 -
ANOC総会開幕 首相「安全・安心な大会に」
1580日前