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マクヌンさんの恩赦を求める嘆願書と署名を大統領府の担当者に提出する支援団体「刑事司法改革研究所」のアンガラ・スワジュ所長(左)=ジャカルタで、刑事司法改革研究所提供

 インドネシアの最高裁が、セクハラ被害者が声を上げるのを後押しする「#MeToo」運動に逆行するような判決を出した。公立高校で校長からセクハラ被害を受けたと訴えた事務職員の女性(37)に対し、証拠として録音した携帯電話の会話データを拡散させたのは情報電子取引法(ITE法)違反にあたるとして、禁錮6月、罰金5億ルピア(約400万円)を命じたのだ。女性を擁護する世論は大きく、支援者らは「被害者が声を上げるのを諦めさせる前例になってしまう」と憤る。

議論を呼んだセクハラ裁判

 インドネシアでは、セクハラ被害が公になることがまれだ。今回の事件は中部ロンボク島マタラム市にある公立高校で起こった。経理担当として働いていたバイク・ヌリル・マクヌンさんは、男性校長からの度重なる電話で別の女性との性的関係について聞かされ、一緒にホテルに行くよう誘われていたという。校長の権限を恐れて我慢しながらも、2012年8月に携帯電話で会話を録音。その後、録音データのことを知った同僚が地元の役所に告発すると言うので託したところ、ほかの同僚らにも渡り、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で拡散したという。

マクヌンさんを支援する「刑事司法改革研究所」のジェノビバ・アリシアさん=ジャカルタで、武内彩撮影

 マクヌンさんは、マタラム市教育委員会からの聞き取り調査後に解雇された。一方、校長の職を解かれた後も市教委で仕事を続けていた元校長は15年3月、マクヌンさんが録音データを拡散させたことで名誉を傷付けられたとして地元警察に被害を届け出た。マクヌンさんはデータを渡した相手は同僚だけだと容疑を否認。地裁は17年7月に無罪判決を出したが、検察が上訴した(インドネシアでは地裁判決が無罪の場合、検察は最高裁に上訴する)。最高裁は今年9月末、マクヌンさんが録音データを拡散させたのはITE法違反にあたるとして有罪判決を言い渡した。

 支援団体は、恩赦を求める嘆願書と10万人以上の署名をジョコ大統領に提出。ジョコ氏は司法判断を尊重すべきだとしながらも「正義を求めるなら再審理の手続きをとるべきだ」とコメントした。世論に押される形で、検察側は判決後もマクヌンさんの身柄拘束を延期している。弁護団は書類が整い次第、最高裁に再審理を求める予定だ。

インドネシアの「#MeToo」

 マクヌンさんの恩赦を求めて活動する支援団体「刑事司法改革研究所」のジェノビバ・アリシアさん(20)は、「今回の判決でセクハラ被害者が声を上げるのをためらうようになるかもしれない。勇気を出しても有罪になるくらいなら泣き寝入りする方を選ぶ」と懸念する。

 米ハリウッド映画界の大物プロデューサーのセクハラ疑惑が報じられたのを機に女性らが「#MeToo」を合い言葉に自らの被害体験を証言し始めた反セクハラの動きは、欧米で瞬く間に広がった。ただインドネシアでは「#MeToo」運動は大きなうねりにはならなかった。

 アリシアさんによると「都市部に住む高等教育を受けた一部の女性の間で話題になったくらい」。インドネシア政府の17年の調査によると、15~64歳の女性の約3割に身体的、性的暴力の被害経験があり、ジャカルタなど都市部よりも地方で高かった。被害に遭っても泣き寝入りしているケースが多いとみられる。警察に性的被害を訴え出ても、当事者同士で解決するよう説得されたり、和解を勧められたりすることがあるという。

 日本でも「#MeToo」はそれほど大きな動きにつながらなかったが、構造は似ているようだ。日本では実名で被害を告白した女性が激しいバッシングを受けたが、アリシアさんも学生時代、クラスメートからの被害を大学に訴え出た女子学生が周囲から心ない言葉を投げかけられるのを見た。

 2次被害を容認しているような社会で、被害者が声を上げるのは難しい。アリシアさんは「一時的なブームの運動ではなく、地道に社会の根っこにある考え方を変えていく必要があります。警察や検察、司法関係者はもちろん、被害者が声を上げやすくなるよう社会が変わるべきです」と訴える。

 マクヌンさんは最高裁の判決後、夫や弁護団と一緒に元校長のセクハラ行為を地元警察に届け出た。弁護士によると、警察はすでにマクヌンさんら関係者から聞き取りを始めており、女性に対する暴力に関する専門家にも意見を求めているという。弁護団はインドネシアで初めて、言葉によるセクハラも不正行為にあたると知らしめる突破口となればと期待する。【武内彩】

武内彩

ジャカルタ支局記者。1980年和歌山県生まれ。2005年に毎日新聞に入社、神戸支局を振り出しに大阪社会部の在籍が長かった。東南アジア好きは学生時代のフィリピン留学以来。担当地域はインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、オーストラリアなど。

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