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晴レルデ

おもい-つくる/4 デザイン界のビッグパパ

若手クリエーターたちに囲まれてご機嫌の築山敬志朗さん=大阪市港区で2010年12月25日、森園道子撮影

 マリさん(築山万里子さん)の父で、アサヒ精版印刷の先代社長(現会長)、敬志朗さん(77)のことを、よく知る人たちは親しみを込めて「パパ」と呼ぶ。

     コピーライターの村上美香さんは「大家族のお父さんというか、ボスというか。世の中で一番、結婚式のスピーチしてるのではないかというくらい。私たちは娘世代だけど、その下の世代にわたって人脈がある」と語る。そう言えば8年前のクリスマスに、港が見えるミュージアムで開かれたパーティーをのぞいた。確か、若手クリエーターたちによる会の発足を祝うもので、人だかりの真ん中には、「なんか、おもろいことせえ」とたきつけた「パパ」がいた。

     たきつけられた墨絵師の東學さん(54)は、25歳の時の忘れられない光景がある。大阪のデザイナー100人で100枚の花のポスターを作るというイベントで、何社かの印刷会社がそれぞれ印刷を分担した。學さんを受け持ったのがアサヒ精版だった。「ある日、つかつかとパパが事務所に入ってきて、僕をパーンとけるんですよ。『お前のは色指定が100もある。細かすぎんねん。ボランティアでやってんのに』言うて、『お前の挑戦状やと思て、やる』って、ぱっと帰った。かっこええ!」

     男が男にほれた瞬間だった。と言ってかっこええことばかりでなく、「飲み会でビールかけられたり、ブーツにワインつがれたり、わけわからん伝説がいっぱいある」というやんちゃなおっさんなんだが、「『お前のことは一生、見続ける』って宣言してくれた。パパは男気がある」と學さんは遠くを見やる。

     2人の証言から、人脈と男気というキーワードが浮かんできた。一面から見れば、酒飲みのむちゃくちゃなおっさん。でも、それは人脈を広げる方法でもあったのだ。

     2月にマリさんに取材するため、会社を訪ねた時、「パパ」がいた。「久しぶりに会社に来たんや」と笑うけれど、前年の12月に肺の大手術をして以来、会社には出てきてないと聞いていたから、わざわざ来てくれたのだ。ピンクのセーターという若々しい格好で、元気な頃と変わらすひょうひょうと、あれこれ話してくれた。

     「50歳の誕生日に、仲間が有馬温泉の旅館を借り切ってサプライズパーティーやってくれて。100人集まって、朝までどんちゃん騒ぎ」とか、「東京のトップと大阪のトップ10人ずつで、箱根でゴルフの東西対決。あっちはOO、こっちは△△がおったわ」と、大物デザイナーや有名作家らの名前がバンバン出てくる。そんな話の中に、「パパ」の仕事のやりようをよく表すエピソードがあった。

     「ある時、印刷屋の2代目が『ツキさん、いま3億円あったら何したい?』と聞くんや。そいつはドイツの最新の機械をいくつか買いたいと言いよったわ。俺は『3億使って3人の優秀なクリエーターを見付けたい』言うた。そいつはびっくりしよって『真面目に考え』って。2代目は機械を入れて、今も会社続いてる。うちは全然大きくならん。その代わり、デザイナーのネットワークは一番たくさん持ってる」

     父親が始めた印刷屋を継ぐつもりがなかった「パパ」が、アサヒ精版から印刷機をなくした張本人だ。その仕事の流儀を、もう少し聞いてみよう。

     --と、ここまで書いた直後、がんで闘病中だった敬志朗さんの卦報が届いた。25日の葬儀には大勢の人が参列し、「パパ」との別れを惜しんだ。<文・松井宏員 写真・森園道子 デザイン・シマダタモツ>

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