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共生のために

「使い捨て」は継続しない 未来のため相応の覚悟を

崔洋一氏

 外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案が国会で審議されている。実現すれば外国人政策の大きな転換点になるものの、日本人と日本にやって来る外国人のそれぞれが暮らしやすい共生社会は実現できるのか。映画監督の崔洋一さん(69)に思いを語ってもらった。【聞き手・最上和喜】

    摩擦は必ず生まれる

     社会の内と外のぎりぎりのところ、細い道というか暗がりというか、そういう所にいる人たちに興味があります。偏愛のような感情を抱く、と言ってもいい。だから私の映画の主人公は所属不明だったり、所在なげだったりすることが多いんです。

     私が手掛けた「月はどっちに出ている」という映画にこんな場面があります。ルビー・モレノさん演じるフィリピン人ホステスが、在日韓国人の女性店主から他のホステスへの通訳を頼まれます。

     店主は「10歳で日本に来た私はあんたたちの大先輩。言うことを聞いてりゃ間違いない」と檄(げき)を飛ばしますが、ルビーさんは「ママ(店主)の人生は失敗の連続。ママを見習わなければ幸せになる」と意味を反対に訳してあざけるのです。

     「理想の共生社会」とは全く違う現実を笑い話として描きました。もちろん理想は常に求めていかなければいけません。しかし、さまざまな人種が生きる社会では絶えず摩擦が生まれます。社会的な統合が進む一方で差別主義が肥大してしまうのは歴史の必然です。今後も変わらないでしょう。理想と現実をどう突き合わせていくのかということは、いつの時代も今を生きる者の宿命であり、課題です。

    事実上の移民政策

     今回の法改正は事実上の移民政策です。そうしなければ立ち行かないところまで来てしまいました。もちろん国外から大量の労働力が供給されることで、日本人労働者の賃金低下を招くという懸念はあります。しかし、現状はいわゆる3K労働などで恒常的な人手不足になっています。介護という分野一つを見ても「外国人は言葉が通じないから嫌だ」などと言っている場合ではない。だから国は重い腰を上げたのです。現実を見るべきです。政権が「移民法」という言葉を使わず、「入管法の切り替え」だと主張するのは、社会の変化を嫌う保守層に配慮しているのでしょう。

     そうした視点に立った時に、やって来た外国人たちを国に統合するのか否かという本質的な問題が生まれます。在留資格だけ持たせて働かせて「はいさようなら」とできますか。外国人労働者に日本人並みの給与を保証し、健康保険をはじめとする社会保障を適用するのかという議論が噴出します。最終的には、永住権を与えたり、日本国籍を取得しやすくしたりするなど国の枠組みを見直さざるを得なくなることも考えられます。「使い捨て」が継続しないことは明らかです。

     かつて日本が鎖国をやめて明治近代が訪れたように、これは国家百年の大計です。未来を作るためには相応の覚悟を求められます。反発する人が大勢いることは想像にかたくありません。しかし、それがどうしても嫌だというなら自分たちのコミュニティーを作ってやっていくしかない。でもそれは非現実的で持たないでしょう。

    それぞれの社会観

     私の父は17歳で日本に来ました。だから私は在日2世です。30年ほど前、バブル、そして崩壊期に韓国から「一旗揚げ組」が単純な出稼ぎではなく、定住型に移行しました。東京・新大久保のコリアンタウンなどはその時代に形成されたものです。私は在日といえど日本語を話すなど、日本の中で社会性を培ってきました。だから、一旗揚げ組の「ニューカマー」たちとは存在基盤が違うという印象を持っていました。ところが、日本人の側からすれば、私たちオールドカマーと国交回復後に来たニューカマーの歴史的存在の違いを理解できないのが現実です。

     ここで言いたいのは、在日といっても1世から4世、5世までみな社会観は違うということです。単純にひとくくりにはできません。そして、世代論などで分けることもできません。一枚岩などと考えないでいただきたいのです。在日という一見狭い枠組みの中ですら、それが当たり前です。だからさまざまに衝突は起こりえるし、それをのみ込んでやっていくしかない。そんな現実に日本は今後さらにさらされていくでしょう。

     思い返せば、私が子どもの頃、ブラジルに渡った移民たちはみな農園を持って裕福な暮らしをしていると教えられました。旧満州などに入植した「満蒙開拓団」しかり、日本は明治近代以降、移民を送り出す貧しい国でもあったのです。歴史の転倒ですが、対価を求め日本を目指す外国人がいることはリアルな現実です。

    冷静さを持って

     この国が今どういう状況におかれているのか、一度、腑分(ふわ)けをしてみるといいかもしれません。会社に行く道中で周囲を観察してみてください。東京でも地方でも、すでに多くの外国人が働いています。だからこそ、日本に来る側も受け入れる日本の側も、心理や制度の面で「摩擦はある」という前提に立ちつつ、常に冷静さを持って社会と向き合わなければならないのです。

    さい・よういち 長野県生まれの在日2世。「月はどっちに出ている」(1993年)でブルーリボン賞作品賞。ビートたけしさん主演「血と骨」(2004年)で日本アカデミー賞最優秀監督賞。

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