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余録

「寺院の号、さらぬ万の物にも…

 「寺院の号(な)、さらぬ万(よろず)の物にも、名を付くる事、昔の人は少しも求めず、たゞありのまゝに、やすく付けけるなり」。寺名など物の名をつける時、昔の人は余計なことを考えず、ただ分かりやすくつけたものだ▲「徒然草」はこう述べ、最近の名前のつけ方にも触れている(第百十六段)。考えをこね回して、才覚のあるところを見せようとつけた名前を聞くのは本当にうっとうしい--兼好法師(けんこうほうし)がそう書いたのは700年近く前のことである▲「何事も珍しき事を求め、異説を好むは、浅才(せんさい)の人の必ずある事なりとぞ」。先の段はこう結ばれる。そこまで辛辣(しんらつ)に言うつもりはないが、この話で誰もが思い浮かべる最近の出来事があろう。そう、新駅名「高輪(たかなわ)ゲートウェイ」だ▲JR東日本が東京・山手線の新駅名として発表した「高輪ゲートウェイ」の評判が何とも良くない。ネット上では「長すぎる」「山手線にそぐわない」「意味不明」「ダサい」とさんざんで、積極的な賛成は見つけるのすら難しい▲こうも反発を呼んだのは、新駅名を公募しながらその上位の「高輪」「芝浦」などの簡明さがまるで重視されなかったためだろう。「ゲートウェイ」は同地の再開発計画のキーワードでもあり、結局は出来レースと疑う声も飛び出た▲未来にかける意気を示す新駅名の不評はJRには不本意だろう。しかし駅の名前はその利用者はもちろん社会全体にとっての“公共財”である。決定にあたっては700年の時にも耐える知恵がほしかった。

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