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余録

「蓑虫の音を聞きに来よ草の庵」は…

 「蓑虫(みのむし)の音(ね)を聞きに来よ草の庵(いお)」は芭蕉(ばしょう)の句。ミノムシが鳴くの?といぶかる方もおられようが、俳人は興趣のためならカメでもミミズでも鳴かせてしまう。ミノムシの鳴き声は「ちちよ ちちよ」だとか▲言い伝えではミノムシは鬼の子といわれた。枕草子によると、秋風が吹くころに戻るから待てと親に言われて置き去りにされ、「ちちよ、ちちよとはかなげに鳴く、いみじうあはれ」となった。こんな話を風流人が見逃すはずはない▲鬼ならぬミノガの幼虫であるミノムシはもちろん実際には鳴かない。ただ昔の人が粗(あら)いみのに身をくるんだ鬼の子に見立てた気持ちは分かる。このみの、内側はふわふわで、広げてつなぎ合わせれば丈夫な「蓑虫布」ができたという▲そのみのを作るたんぱく質の糸が、今まで自然繊維最強とされたクモの糸の1・8倍の強度なのが分かったそうだ。製薬会社の興和などがミノムシから長い糸を取り出す技術を開発、新たな工業素材として利用する道が開けたという▲そう聞いてもピンとこないが、たとえば用途の一つに防弾着もあるそうな。さすが鬼の子のみのと得心がいく。耐熱性に優れるなど従来の繊維素材にないさまざまな特性も確認された。自動車や航空機の部品への活用に期待は広がる▲エサを与えれば糸は取れ続け、多数の飼育も容易というから大量生産にも好都合である。さて、大きな工場で糸を出し続けるミノムシたちは冬枯れの枝にぶらさがって木枯らしに揺れる夢を見るだろうか。

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