人種差別か伝統か。オランダで論争が続く黒塗りの「ズワルト・ピート」=AP

 オランダの子供たちにとって12月5日は特別な日だ。赤い冠とマントをまとい、白く長いひげをたくわえたシンタクラース(聖ニコラウス)がプレゼントを届けにやってくる。オランダ移民と共に開拓時代の米国に伝わったこの風習は、「サンタクロース」に姿を変えてクリスマスの象徴として定着したとされる。子供たちに夢を届けるシンタクラースは例年、オランダ国内を二分する論争の火種も運ぶ。それは顔を黒塗りにしたズワルト・ピート(黒いピート)と呼ばれる従者の存在だ。

顔を黒く塗り、唇を赤く誇張した縮れ毛の従者

 伝承によるとシンタクラースは11月半ばにスペインから蒸気船に乗って到着し、白馬とピートを従えてプレゼントを配る旅に出る。19世紀半ばに出版された絵本がこの設定の元になっているようだ。この時期、オランダ各地でシンタクラースの到着を祝うパレードが行われる。多くの場合、従者のピートは白人が顔を黒く塗り、唇を赤く誇張したメークに縮れ毛のかつらをかぶって仮装する。黒塗りのピートが「人種差別」にあたるとして反対派は容姿を変えるよう求めているが、「伝統」を重視する強硬な擁護派は受け入れない。

 反対派のグループは今年、黒塗りのピートを公共放送の番組に登場させないよう裁判を起こしたが、11月半ばに棄却された。地元メディアによると、判決は反対派と擁護派双方の立場に配慮を示した上で「議論を続けることの重要性」を説いたという。

 判決直後にオランダ中部の港では例年通りシンタクラースが黒塗りのピートを連れて上陸するイベントが行われた。続いて国内各地で開催されたパレードでは、反対派に対する暴力で拘束者が出たり、安全確保の目的で反対派のデモが中止に追い込まれたりした。

反対派は「奴隷貿易を想起させる」と批判

黒塗りの「ズワルト・ピート」を従えてオランダ中部の港に到着したシンタクラース=AP

 オランダで黒塗りのピートを巡る議論が先鋭化したのは2011年のことだ。「ズワルト・ピートは人種差別だ」と書いたTシャツを着たカリブ系移民の活動家が警察に拘束された事件がきっかけだった。カリブ史とオランダ文化に詳しいエラスムス大学ロッテルダムのアレクサンドル・バン・スティプリアーン教授によると、議論は1960年代から続くものだという。

 反対派の中には、オランダがかつて展開した奴隷貿易を想起させるという主張がある。とりわけカリブ海に面した南米大陸北部スリナムの植民地支配がその典型例とされる。17世紀からオランダの植民地となったスリナム(1975年に独立)では、アフリカ大陸から移送された黒人奴隷を搾取し、砂糖などのプランテーション経済が発展した。

 1970年代以降、オランダ本土にはスリナムを含むカリブ地域の旧植民地から多くの移民が渡った。バン・スティプリアーン氏によると、黒塗りのピートに反対する運動には移民の2世・3世の代が積極的に加わっているという。

 欧州各地には聖ニコラウスを巡る同種の風習が残り、広い地域でピートの代わりに「悪い子を正す」という魔物のような生物が同行する。

 「従者が典型的な黒人の容姿をしているのはオランダとその周辺だけだ。反対派はこの苦痛とも言えるステレオタイプにあらがっている」「『伝統を変えてはいけない』という主張がある。しかし、伝統は新たな環境と共に変わる。黒塗りのピートの歴史はわずか160年だが、(シンタクラースの起源とされる聖人の)聖ニコラウスには2000年近い歴史がある」(バン・スティプリアーン氏)

大都市圏を中心に進む変化

 大都市圏を中心に少しずつ変化は起きている。

 首都アムステルダムのイベントでは近年、黒塗りのピートの代わりに、“すす汚れ”をメークで表現したピートが登場している。プレゼントを配るために煙突を行き来するとの伝承に基づいた工夫だ。

ベルギーの自治体が主催する行事では黒塗りのピートの塗り絵が飾られていた。ベルギーでは黒塗りのピートを巡る議論は低調だ=ブリュッセルで11月30日、八田浩輔撮影

 オランダの教育関連会社が今月初めに発表した調査によると、アムステルダム、ロッテルダム、ハーグの3大都市圏の学校の関連行事では7割で「えんとつピート」が用いられているのに対し、一部の地方では2割程度にとどまっている。

 また調査会社I&Oリサーチの世論調査によれば、ピートが「黒いままであるべきだ」と答えた人の割合は2016年には65%だった18年は50%に下がった。一方で「変わるべきだ」だと答えた人の割合は16年の32%から18年は44%に増加した。

 この調査では支持政党も尋ねている。

 「黒いままであるべきだ」と答えた人のうち、支持政党別で最も高かったのが反移民を鮮明にする右派・自由党で88%。反対に最も低かったのは移民に親和的な左派・緑の党支持者で15%だった。これらの政党は共に昨年3月のオランダ総選挙で議席を伸ばし、分極化の進行を印象付けた。

「黒い従者」巡る対立は分極化の象徴

 ティルブルフ大学の社会学者、ペーター・アフテルベルグ教授は、黒塗りのピートを巡る対立の底流には「脱伝統」があると分析する。「かつて人々は教会へ行き、礼拝で説教を聞いた。これが社会を結びつけていた。今はその代わりに文化が人々をつないでいる」「我々が目にしているのは、異なる文化の受け入れを巡る問題だ」

 アフテルベルグ氏は、ピートを巡る分断は今後さらに深まると予測する。「双方に極度の不寛容が存在する。(擁護派・反対派が)それぞれの立場に固執することは双方に悪い結果を招く。分極化は今や西側の先進国のどこでもみられる。『ズワルト・ピート』はその象徴に過ぎない」【八田浩輔、取材協力=フィリップ・ジブコビッチ】