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晴レルデ

おもい-つくる/5 大事なんは人や

アサヒ精版印刷の築山敬志朗会長(右)と築山万里子社長=大阪市中央区で2018年3月13日、川平愛撮影

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 今年の3月、「パパ」こと築山敬志朗さんは、アサヒ精版印刷で娘のマリさん(築山万里子さん)と共に私に向き合って、いろいろと話してくれた。

     アサヒ精版は昭和初めの1927年、「パパ」の父が創業した。

     「なんで印刷やったかようわからんけど、戦前から活版印刷ををやってて、貿易関係の伝票や契約書などに特化してた。英文字の活字のフォントは大阪…、多く持ってた。繊維商社が全盛の頃で、本町の商社は独占的にやってた」

     「パパ」が同志社大学に進んで半年後、学生運動をよそ目にマージャンや音楽にうつつを抜かしていた時、父親が病に倒れた。呼び戻され、そんなつもりはなかったのに会社を継ぐことになった。「前も後ろもわからん」と右往左往するうち、鉛の活字を組む活版印刷は写植に、そしてオフセット印刷に取って代わられてゆく。私が入社した頃は新聞社もまだ活版印刷で、工員さんが鉛の活字を並べて刷る時代だった。

     「スピードは活版で1時間1000枚やったのが、オフセットは1万枚。精度は上がる、単価は下がる。質量ともにオフセットにはかなわん。お金になるようなデザインがらみの仕事はオフセットが持っていった。そうなってくると機械に資本投下せなアカン。当時で億のカネが要る。そういうカネがあればクリエーターとの交流の飲みに使いたい」

     そうして印刷機をなくすという決断をした。新聞社の印刷も活版からオフセットへ移行し、新聞記者になった私が毎日、デスクに怒鳴られていた80年代のことだ。

     「機械をなくすのに抵抗はありましたね。クライアントや同業者からいろいろ言われるし、ブローカー扱い」と「パパ」は苦笑いする。ブローカーとは、独立した営業マンという意味。あの時、印刷機をなくさず、置いてたら?と尋ねたら「もちろん、会社は影も形もないですわ」と即答が返ってきた。

     ところが、いっぺんに印刷機をなくしたのではなかった。機械をなくすと言いながら、近所のたばこ屋の奥を借りて、1台だけ機械を置いていた。なぜなら、職人さんが1人、残っていたからだ。「最後の1人がいなくなるまで置いてた。その間、少なくとも年間1000万~2000万円の赤字は出してた」。いやおうなく変革するのではなく、職人さんを立てて、やんわりと変えていったのだ。

     この姿勢は終生、変わることがなかった。コピーライターの村上美香さんと墨絵師の東學さんが設立したデザイン会社が金銭トラブルに巻き込まれた際、いち早く飛んできて通帳を調べて、精神的な支えになってくれた。一日も休むζとなくよく働き、同じだけよく飲んでよく遊び、人との輪を広げてきた。

     昨年末の手術については、「ヘビースモーカーと酒浸りがたたって。3年前から酒もたばこもやめてます」と笑いのめし、「もう飲みたいとは思わない。20歳から休みなしに……」と言ったところで、マリさんから「飲み倒したから」とちゃちゃが入って、苦笑いするしかない「パパ」だった。

     先月、77歳で亡くなった「パパ」に、長年の仕事仲間は、手紙に病気でままならぬ手で震える文字をしたためてくれた。「デザインという文字すらなかった時代、デザインの社会性を企業に伝え、デザイン界をまとめ、新しい活動に尽力していただいた」と。

     マリさんはあいさつで、勉強せえと言われたことがなかった放任主義と、「パパ」が言い続けた言葉を紹介した。

     「一番大事なんは人や」<文・松井宏員 写真・川平愛 デザイン・シマダタモツ>

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