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戦火のベトナム、脱出した姉妹(その1) 二つの家族の43年

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現在のリーさん(左)とエミーさん。サイゴン脱出から43年、米国の「もう一つの家族」とも親密な関係を築いている=米中西部ネブラスカ州で6月、國枝すみれ撮影
現在のリーさん(左)とエミーさん。サイゴン脱出から43年、米国の「もう一つの家族」とも親密な関係を築いている=米中西部ネブラスカ州で6月、國枝すみれ撮影

 ヘリコプターがぐらりと傾き、ビルの屋上から舞い上がった。かなたに海が見えたのを覚えている。

 ベトナム戦争最末期の1975年4月30日、米国が支援した南ベトナム政府の首都サイゴン(現ホーチミン市)が陥落した。米軍は前日から30日朝までに、米国人ら約7000人をヘリで脱出させた。その中に当時5歳のリー・ニューン・ウィリアムズさん(48)と同3歳のエミー・マイ・グレイさん(47)姉妹がいた。「怖くて、泣き叫んでいた」。今は米国で暮らすリーさんが思い出す。

 姉妹の父は米国人パイロット、母はサイゴンのホテルに勤めるベトナム人だった。救出ヘリが高層ビルに降りる--。そう聞いた母は29日、姉妹に一番いい服を着せ、ビルに向かった。友人宅の使用人だったベトナム人女性も同行した。しかし、屋上も階段も脱出しようとする大勢の人たちがひしめき、身動きできないほど。母は女性に強く言った。「子供たちと屋上に行って。もう下りてこないで」

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