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2017年10月にあった衆院選の「1票の格差」を巡る最高裁判決が19日、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)で言い渡されます。「1票の格差」とはどんな格差で、何が問題なのでしょうか。
「清き1票」でも重みが違う
2017年の選挙で最も多い票を獲得した候補者は誰でしょうか。神奈川15区の河野太郎氏(自民)です。約16万票を得て当選しました。北海道5区の池田真紀氏(立憲)は約13万6000票を得たのですが、約6700票差で落選しました(比例代表で復活当選)。ところが、全国を見渡すと、池田氏の半数に満たない6万票台の当選者が多くいます。
当選ラインは投票率や候補者の人数にも左右されるので一概に言えませんが、選挙区によって有権者の数が大きく異なることが格差を生み出しています。選挙当日の有権者数は神奈川15区、北海道5区がともに約47万人だったのに対し、最も少ない鳥取1区は23万8771人でした。全国で最も多い東京13区(47万2423人)は鳥取1区の1.98倍になります。鳥取1区の1票に対して、東京13区の1票は半分の価値(重み)しかないことになります。
「憲法問題だ」と弁護士たちが訴え

現在の日本国憲法の下で初めて衆院選が行われたのは、1949年。当時はひとつの選挙区から3~5人を選ぶ「中選挙区制」でした。日本はその後、農村部から都市部への流入が続き、1票の格差は拡大し続けました。
憲法14条はすべての国民は「法の下に平等」だと定めています。「1票の価値に大きな格差があることは憲法14条に反している」。2009年に亡くなった弁護士の越山康さんは1962年の参院選後、選挙無効(やり直し)を求める裁判を東京高裁に初めて起こしました。これが今もなお続く「1票の格差」訴訟です。
越山さんらの訴えに対し、最高裁大法廷は76年4月、最大格差が約5倍だった72年の衆院選について初めて「違憲」との判断を示しました。「1票の価値は平等であるべきだ」との考えは憲法14条が求めていると、憲法の番人が初めて認めたのです。その上で(1)地域事情などのさまざまな要素を踏まえたとしても不合理と言えるほど格差が大きくなり(2)一定期間を超えても格差が改善されなかった時に違憲になる――との判断基準を示しました。ただし、選挙をやり直すことは政治の大混乱を招きます。大法廷はそれを避けるために選挙無効の請求は認めませんでした。
国会と裁判所のキャッチボール
越山さんと彼の仲間はその後も国政選挙のたびに裁判を起こしました。判決で改善を求められた国会は、人口の少ない選挙区を統合し、多い選挙区を分割する定数是正で応じました。
衆院では96年から「小選挙区比例代表並立制」が導入されました。小選挙区はひとつの選挙区で1人の当選者を選ぶ仕組みです。この導入により、同年の選挙では最大格差が2.82倍から2.32倍に下がりました。
2009年の衆院選以降は別の弁護士グループも参入し、全国で裁判を起こすようになりました。最高裁大法廷は11年、大きな影響のある判断を示しました。最大格差が2.30倍だった09年選挙を「違憲状態」としたのです。
数字だけを見ると、2.30倍は以前に合憲とされた1996年とほとんど変わりません。「3倍未満なら最高裁も許してくれるだろう」と、国会が積極的な格差解消を進めない状態が10年以上続いていたのです。最高裁は業を煮やしたのかもしれません。国会が小選挙区制導入時に、まず1議席を47都道府県に割り振る「1人別枠方式」が、格差が縮小しない原因だと指摘し、国会に廃止を求めました。
その後も目立った格差是正は進みませんでしたが、国会は2016年、人口比をより正確に反映できる「アダムズ方式」を取り入れた選挙区割りを20年以降に行うことを決めたうえで、17年に「0増6減」を含む97選挙区で区割りを変更し、同年衆院選では最大格差が1・98倍と初めて2倍を下回りました。
最高裁が格差縮小を迫り、国会が改善策を考える。こうした状況を、16年に退官した最高裁判事は「司法部(裁判所)と立法府(国会)のキャッチボール」と表現しました。最高裁がキャッチボールを続けるのは、選挙権というものが民主主義を支える根幹であるという考えがあるからでしょう。今回、国会が投げたアダムズ方式というボールに、どのような答えを返すのか。19日の判決が注目されます。
【東京社会部・伊藤直孝】