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岡崎 武志・評『いつか深い穴に落ちるまで』『やましたくんはしゃべらない』ほか

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今週の新刊

◆『いつか深い穴に落ちるまで』山野辺太郎・著(河出書房新社/税別1300円)

 朝起きたら虫に、日本列島沈没と、奇想の小説数々あれど、文藝賞受賞作の山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』にも驚いた。

 戦後まもない闇市で、粗悪焼酎をあおる運輸省の若手官僚が、やきとりの竹串を見て新事業を思いついた。資源のない日本と、地球の裏側ブラジルを、穴を掘って直結させようというのだ。途方もない開発プロジェクトの審議が始まり、10年後ゴーサインが出た。

 事業は極秘で進められ、新入社員の広報係・鈴木が、一身を賭すこととなる。穴を掘ったら温泉が噴き出たり、ブラジル側の広報の女性と交流をもったりと曲折はあるが、著者は鈴木が背負うサラリーマンの悲哀を中心に描く。けなげな地味さがいい味だ。

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