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社説

安倍政権2度目の防衛大綱 巨額の装備購入ありきか

 日本を取り巻く軍事的な環境の変化に合わせて防衛力のあり方を見直すことは必要だろう。ただし、政府が客観情勢の認識を国民と共有する努力をしてきたかは疑問だ。

     来年度以降を対象とした新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画が閣議決定された。安倍政権による防衛大綱の改定は2回目となる。

     前回からわずか5年で改定した理由については「想定したものよりも、格段に速いスピードで(安全保障環境の)厳しさと不確実性が増している」からだと説明されている。

     この間、中国の軍事力の強大化と北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威が著しく増したのは間違いない。 科学技術の進展により宇宙空間での人工衛星への攻撃や、情報ネットワークを破壊するサイバー攻撃なども想定しなければならなくなった。

    専守防衛の議論が必要

     そのため旧来の陸海空という軍事領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域にも対応する「多次元統合防衛力」の構築が新大綱のコンセプトとして掲げられた。

     航空自衛隊に新設される宇宙領域専門部隊など、具体的な装備や態勢の検討はこれからの部分が多いものの、大きな方向性は理解できる。

     他方で、戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条から導かれる日本の基本政策として専守防衛がある。新大綱にも明記されたが、新たに導入される装備には専守防衛との整合性が問われるものが少なくない。

     ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」型の事実上の空母化がその一例だ。甲板などを改修し、短距離離陸と垂直着陸の可能な戦闘機を搭載できるようにするという。

     政府の憲法解釈で「攻撃型空母」の保有は専守防衛に反するとされてきた。一方、中国が空母の運用を始めたのだから、東シナ海や太平洋の離島を防衛するうえで空母があった方がよいという考え方も否定はできない。脅威の態様によって専守防衛の形が変わる部分もあるだろう。

     だが、普段は対潜水艦哨戒ヘリを搭載し、戦闘機は必要な場合だけの運用だから攻撃型空母ではないという政府の説明はごまかしに等しい。

     大綱改定を待たずに今年度予算で導入が始まった長射程の巡航ミサイルも同様だ。新たな長射程ミサイルの開発も盛り込まれた。離島防衛に必要だからと説明されているが、他国のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」にもなり得る。

     敵基地攻撃能力の保有については自民党が新大綱に盛り込むよう求めたが、見送られた。正式に保有を宣言して物議を醸すより、必要な装備を別の名目で先行取得しておこうという意図も見え隠れする。

     民主主義国家の防衛力の適正水準を決める要素には憲法を基礎とする法体系、安全保障環境(脅威レベル)、経済力、外交力などがあり、国民の理解が絶対条件となる。

     見直す場合は国民への丁寧な説明と国会での徹底した議論がなされなければならないが、そのプロセスが省かれていないか。法体系の根幹にかかわる議論をごまかし、なし崩しで変質させてよいわけがない。

    対米配慮で進む聖域化

     中国など新興国の台頭で米国の影響力が相対的に低下したことも日本の専守防衛を変質させる要因になっている。日本は自国を防衛する盾の役割に徹し、敵国に反撃する矛の役割は米国が担うのが日米同盟だが、米側は役割分担の見直しを求めており、トランプ政権になってその要求はますます強まっている。

     日本が米国の最新鋭ステルス戦闘機F35を105機追加購入する金額は1兆円を優に超える。うち42機が空母艦載可能なタイプとなる。

     陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入も追認する形になった。貿易赤字を減らしたいトランプ大統領からの圧力が影響したことも否定できない。

     巨額の装備購入が先にあり、理屈を後付けするために大綱を改定したというのが実態ではないか。

     その結果、過去の大綱にあった節度ある防衛力整備という姿勢は影を潜め、来年度から5年間の歳出見積もりは現行計画より3兆円近く多い27兆4700億円に膨らんだ。

     政府は装備品代金の長期分割払いなどによって毎年度の防衛費の伸びを抑える方針だが、将来にツケを回すことを意味する。少子高齢化で国民負担が増大し、社会保障費が厳しく切り詰められる中、防衛費だけが聖域であってはならない。

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