オピニオン

「スポーツと環境」の立場からSDGsを考える 体育学部 スポーツ・レジャーマネジメント学科 准教授
大津 克哉

2019年1月4日掲出

 今や、企業や自治体など、社会のあらゆる場面で強調されるSDGs*。スポーツ界も例外ではない。来年に迫った東京大会でも持続可能な成長が大きなテーマとなっており、今やスポーツと環境は切っても切れない関係となっている。そこで、スポーツと環境に関する研究の第一人者である大津克哉准教授に、これからのスポーツ界が目指すべき道について聞いた。【聞き手・中根正義】

 

 ――SDGsは今、社会の一大潮流となっています。スポーツ界でもSDGsを意識した取り組みが活発になっているそうですね。

 教育や健康、開発、平和の促進等の問題を解決する手段として、スポーツの影響力を効果的に取り入れた実践は、何も今に始まった事ではありません。2000年にニューヨークで開催された国連ミレニアムサミットにおいて、21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」が採択されました。その結果、国連は、2015年までに貧困と飢餓の半減、初等教育の完全普及、HIV/エイズの蔓延阻止など、社会発展に不可欠な8項目を「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」として示し、これらの問題解決に向け、「スポーツの力」を利用するプロジェクトが立ち上がりました。

 それ以前に、環境問題としては、1980年代に環境保全と経済発展を両立させていこうという考え方として、「持続可能な開発」という概念が提案されました。そして92年には、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミット(環境と開発に関する国連会議)で、環境を破壊しない開発を行っていくことを原則とするリオ宣言とともに「アジェンダ21」という行動計画が採択されました。しかし、このサミットから25年以上経った現在も、残念ながら目標達成はおろか、地球温暖化や大気汚染、海洋汚染、オゾン層の破壊、酸性雨、広範な砂漠化、有害廃棄物の越境移動、気候変動による生物多様性の減少や種の絶滅、乱伐、水不足にいたるまで、世界規模で悪化していると言わざるを得ません。

 

 ――「スポーツと環境」は、一見するとあまり関係がなさそうに思われます。

 森林伐採や砂漠化などの自然破壊、水・大気・土壌の環境汚染、水・食糧・エネルギー源など資源の枯渇は、明らかに人為的に引き起こされる環境問題です。そのため他人事ではなく、自分事としてこれらの問題を捉え、我々人間が何とかして食い止めねばというのが私のスタンスです。そして、私自身、スポーツに日常的に取り組んでいたこともあり、興味・関心があった環境問題とスポーツにどのような接点があるかと考え始めたわけです。

 「スポーツと環境」には2つの側面があります。そもそも悪化した環境はスポーツ参加者の健康を害する。さらに、例えば温暖化による雪不足でウインタースポーツができなくなるなど、スポーツをする環境が整わなくなるのも地球環境の変化による影響です。冬のスポーツばかりが注目されますが、台風の増加やゲリラ豪雨、熱中症など、どれをとってもスポーツ活動に悪影響を及ぼす問題です。このように、悪化した環境がスポーツに与える影響には、被害者の側面が少なくないと言えます。

 一方で、メガスポーツイベントを行うためには施設が必要で、開発によって自然破壊を引き起こしたり、大量の廃棄物が出たり、多くのエネルギーを消費したりすることで環境に負荷をかけているということがあります。いわば、スポーツが環境に影響を及ぼしているという、加害者の側面もあるのです。

 このように考えていく過程で、地球環境の悪化はスポーツの存在自体に関わる非常に重要な問題であるにも関わらず、日本におけるスポーツと環境問題の研究がほとんどなされていないというのが現状だということに気付きました。

 実はスポーツ愛好家やアスリートこそ、環境問題に敏感なグループと言えるでしょう。なぜならば、プレーする環境としてきれいな空気や水を求めるからです。さらにスポーツに取り組む人は、潜在的に環境問題を自分事として捉えることができるのです。きれいな空気や水の大切さを知っているスポーツ愛好家たちが率先してライフスタイルを見直すことによって、環境問題解決の一翼を担うことができる。そこで、現在ではスポーツ界も環境問題を無視できないということで、さまざまな活動が行われています。スポーツ選手もただ競技に取り組むのでなく、ロールモデルとして社会的なメッセージを発信していく必要があると言われていて、実際、多くのアスリートが環境問題について発言しています。

 もう一つ、スポーツ愛好家には、フェアプレーの精神、スポーツマンシップという倫理観が備わっています。スポーツは社会的な影響力を持っているので、スポーツを通した環境問題の啓発も非常に重要になってくる。現場の環境保全とともに、環境教育という側面も重視しなければならないわけです。車の両輪のように、現場の環境保全と環境教育が上手くリンクすることで、スポーツを通した環境問題の解決につながる可能性があると言えます。

 

 ――そもそも、なぜオリンピック・パラリンピックやスポーツのビッグイベントにおいて環境について取り組むようになったのでしょうか。

 オリンピックに関しては、1972年の冬季オリンピック札幌大会の組織委員会が環境問題に取り組んだのが最初です。恵庭岳を会場に行われたダウンヒルのコースを大会後に植林をし、原野への復元を目指しました。スポーツも環境問題のことを考えなければいけないという動きの先駆けだったのが札幌大会だと言われています。

 90年代になると、オリンピズムの根本原則などを成文化したオリンピック憲章のなかに環境についての項目が加わりました。また、IOC(国際オリンピック委員会)の個別委員会のなかに「スポーツと環境委員会(現在は持続可能性とレガシー委員会へと名称が変更)」が設置されました。先ほど触れた92年の「アジェンダ21」に呼応してスポーツ界でも環境に対して取り組んでいく必要があると、独自に「オリンピックムーブメンツ・アジェンダ21」が策定されたのです。ここには、スポーツに関わるすべての選手をはじめとする個人及び組織が、スポーツを通じた持続可能性に向けてどう取り組むべきか記述されています。以前は、オリンピズム(オリンピックの精神)は「スポーツ」と「文化」の二本柱だったのが、90年代初頭から、「環境」という項目が加わって三本柱になりました。

 

 ――最近は、環境に関する取り組みが重要になっています。2020年の東京大会ではどのような取り組みが見られますか。

 例えば、東京2020の大会組織委員会は自治体から木材を借りて、大会が終わった後に返却し、レガシーとして使ってくださいということも考えていますし、「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」、すなわち家のなかで眠っている小型家電に混在する貴金属類を掘り起こそうという取り組みも進められています。2016年のリオ大会の時はメダルの一部がリサイクルでしたが、今大会は100%リサイクルでメダルを作ろうと謳っています。金属素材の納入状況については、銅はすでに100%集まっているそうが、金と銀はまだ不足しているとのことです。

 

 ──ホスト国として2020年に世界の人たちを迎え入れる私たちは、競技の魅力を発信すること以外に、環境面などでどのようなことを意識し、発信していくべきでしょうか。

 必要なことは、「オリンピック教育」です。オリンピックは、根本的に他のスポーツイベントとは異なります。キーワードはオリンピズムの三本柱、すなわち「スポーツ」、「文化」、「環境」です。

 しかし、ある研究でオリンピックに対するイメージを問う質問をした時に、「競い合い」や「国際交流」、「一生懸命さ」といった項目が挙げられるのですが、オリンピズムの柱である「環境への配慮」についての関心は低く、まだなかなかスポーツと環境というイメージは強く持たれていませんでした。オリンピックに対する関心は何か、という質問では、IOCやJOC(日本オリンピック委員会)はそもそも何をしているのかといった「組織や事業について」や、「オリンピックの起源」「オリンピックと芸術との関係」といった本来のオリンピックの精神に対する関心が低いという結果が出ています。

 オリンピックといえば、「参加することに意義がある」が知られていますが、これには実は続きがあって、近代オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタン男爵が「人生で大切なことは、成功することでもなく努力することである」と述べ、いかなる状況であっても最善を尽くすことの大切さを説いています。参加すればいいというわけではなく、トコトン勝負にこだわり、できる限りの努力をする、その結果、負けてもしょうがないと。どれだけベストを尽くせたかが大切だということです。この考え方は、トップアスリートだけに当てはまることではなく、すべての人間に当てはめて考えることができます。だからこそ、オリンピックの精神、オリンピズムは人生哲学であるとも言われているのです。「より速く、より高く、より強く」というオリンピックのモットーも競技力の向上だけを意図しているのではなく、競技力を高めていくなかで人間としても日々向上していくことを目指す考え方なのです。さらにIOCは、オリンピックの価値として、「Excellence(卓越)」「Friendship(友情)」「Respect(敬意・尊重)」の3つを掲げています。人生にもベストを尽くす、全力で取り組む。スポーツを個人及び世界の人々の相互理解のための手段として考える。そして、お互いに敬意を払い、ルールを尊重する。そうしたオリンピックの根本的な精神は、日常生活においても非常に大切なことです。

 オリンピックは単なる景気刺激の手段ではなく、近代オリンピックの創始者クーベルタンの思想(オリンピズム)に基づいて、スポーツを通じた教育と平和の運動が推進される場となるわけです。開催が決定した2013年から7年間は、オリンピズムを普及させるためのさまざまな活動(オリンピック運動)について学ぶ、またとない機会となって欲しい。ただ、日本は、ヨーロッパなどに比べるとオリンピック教育は明らかに遅れています。したがって、IOCのミッションについてもあまり明確には感じられていないというのが現状です。

 

 ――地球環境とスポーツの関係において、キーワードとなるのは、やはり「持能可能性」ということになりますね。

 まずは自分たち人間が地球に与えている広範な影響というものを意識しながら、自分の行動が環境をどう左右しているのかということを知ることです。そして、及ぼしている影響を未然に防ぐことができる行動を取ることが必要で、早急に「スポーツによる環境破壊」と「環境によるスポーツ破壊」を防ぐために、各自が責任ある解決策を見出していく必要があると思います。スポーツを通じてさまざまな問題に取り組んでいくことは、スポーツ界の変革だけに留まらず、持続可能な社会の実現にもつながっていくはずです。来年に迫った東京大会も解決すべき問題が山積していますが、個々の問題に対するテイクアクション=行動を促すきっかけになって欲しいと思っています。

 「新しい社会づくりの力」というのは、「人数×意識×行動」だという運動方程式があります。授業でスポーツと環境の関係性を尋ねた際に、まずは環境問題を整理しようと言うと、学生は温暖化、オゾン層破壊、砂漠化、酸性雨など次々と問題点を書き出しますが、それらの問題とスポーツがリンクしないのです。つまり、知識はあるが意識として持っていない。なぜなら、日本ではいつでもどこでも比較的自由にスポーツ活動ができてしまうからです。しかし、どんな種目であれ、環境とスポーツは接点があるという話をしていくと、持っている知識が意識に変わっていくのです。それがさらにテイクアクション、何かできることを一つやってみようということになる。そうした人がどんどん増えていけばスポーツを通して環境問題を解決する一翼を担うことができる。それがスポーツと環境の新しい関係性。今、私たちに問われているのは、「人類と地球」との関わり方なのではないでしょうか。

 

 

*SDGs=Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。教育、環境、貧困など17の分野について、すべての国連加盟国が2030年度までの達成を目指す。

 

体育学部 スポーツ・レジャーマネジメント学科 准教授 大津 克哉 (おおつ かつや)

日本オリンピック・アカデミー理事、日本オリンピック委員会スポーツ環境専門部会委員  東海大学体育学部卒業、同大学院体育学研究科修士課程を修了。東海大学体育学部非常勤講師、特任講師を経て2015年度より現職。スポーツ教育学、スポーツ哲学、オリンピック教育に関する研究、テニスを専門分野とし、東海大学体育学部スポーツ・レジャーマネジメント学科に所属、教鞭をとる。おもに、日本のスポーツ研究の分野において「スポーツと地球環境」の問題に関する研究がほとんど為されていないことから、「環境」、「持続可能性」等をキーワードとする新しい研究分野にも取り組んでいる。