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「新芸」とその時代

(54)4回だけの音楽祭開催

第1回東京音楽芸術祭のオープニングコンサート=東京文化会館大ホールで1978年5月9日

財団の設立

 1978年から81年に行われた「東京音楽芸術祭」の存在を記憶している人は、今どのくらいいるだろうか。主催は「日本音楽芸術振興会」。 77年4月に認可された財団法人である。設立の推進役は新芸術家協会(新芸)社長の西岡芳和で、事務局も社内に置くなど、新芸と財団は表裏一体の関係であった。西岡はこの5、6年も前から財団設立を考え始めていたという。

     「ここ数年内の仕事を通して、呼び屋はどんどんできるし、それがバラバラで勝手なことをやってる時代は終わったのではないか、と思うようになって。音楽の事業を拡げようとすると、ほかの事業体ないし運動体、二期会や日本のオーケストラね、そういうとこと一緒に共存してゆかないと、定着しないのじゃないかと強く感じた。そういうことなら、財団をつくって、これを共通の場として、みんなでいい仕事をやることができないだろうか……」(音楽現代77年10月号掲載「インタビュー・音楽界を支える人③」木村英二記)

     財団の理事の顔ぶれはそうそうたるものだ。理事長は福井直弘(武蔵野音楽大学学長)。理事は江戸英雄(三井不動産会長)▽大賀典雄(CBSソニー社長)▽高清一郎(ポリドール社長)▽団伊玖磨(作曲家)▽堤清二(西武百貨店会長)▽長沢泰治(NHKサービスセンター理事長)ら11人。西岡も専務理事として名を連ねていた。顧問には安達健二(前文化庁長官、現東京国立近代美術館長)▽有馬大五郎(国立音楽大学学長)▽今日出海(国際交流基金理事長)の3氏。評議員には、同業の神原、梶本両音楽事務所の社長や東京コンサーツ代表の滝淳らの名前が見える(肩書はいずれも当時のもの)。

    第1回東京音楽芸術祭の開催

     財団設立の翌年、78年5月9日~6月8日の約1カ月間、第1回の「東京音楽芸術祭」が実施された。公演パンフレットには次のような開催趣旨が記されている。

     「世界第一級の芸術家・団体ならびに我が国の演奏家が参加してこの期間に集中して公演し、皆様にそれぞれの分野を代表する演奏を楽しんで頂くと同時に、特に日本と外国の演奏家が共演するなど、様々な形で両者が直接交流し、また我が国の演奏家による日本の作品を含む演奏会等を企画することにより、音楽芸術の質的向上と創造活動の一つの場として役立つように進めたい」

     当時の日本で、国際音楽祭といえばまず「大阪国際フェスティバル」が思い浮かぶ。カラヤン指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、バイロイト・ワーグナー・フェスティバル初の海外公演など、世界のトップクラスの演奏家・団体を続々と招聘(しょうへい)し、そのゴージャスなラインアップが“売り”であった。同じく一流主義の西岡ではあったが、「大阪」との差別化を図るために、あえて日本人の演奏家や作品の紹介を重点項目として掲げたようにも思われる。

     第1回の東京音楽芸術祭は5月9日、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮、NHK交響楽団、二期会合唱団らによるベートーヴェンの「荘厳ミサ」で幕を開けた。当初はモーツァルトのオペラ「イドメネオ」の日本初演を企画していたものの、財団設立から音楽祭開催まで約1年という準備期間の短さもあり、やむなく断念したようだが、「荘厳ミサ」の演奏は「すさまじいばかりの迫力と、終始息を抜かせぬ緊張の中で、彫り深い姿に作品をよみがえらせた」(5月12日付読売新聞、丹羽正明評)など、好意的な評価が目立つ。

     第1回の音楽祭は、フィラデルフィア管弦楽団(ユージン・オーマンディ指揮、アイザック・スターン特別出演)など新芸招請のアーティストの他、パイヤール室内管弦楽団(梶本音楽事務所)、イーストマン管楽アンサンブル(神原音楽事務所)といった他社招請の演奏家も参加。同音楽祭の“売り”である日本人の演奏家や作品の紹介として、西武劇場の看板企画で、作曲家の武満徹が企画・構成する演奏会シリーズの「今日の音楽(ミュージック・トゥデイ)」を組み込んでいるのも興味深い。ちなみに「今日の音楽」は第3、4回にも音楽祭に参加している。

    新たな試み続々と

     さらに第2回からは「日本の音楽家」シリーズがスタート。人選にあたる企画委員は、上浪渡(NHK芸能局洋楽チーフディレクター)、柴田南雄(作曲家)、船山隆(音楽学者)、森正(指揮者)、丹羽正明(音楽評論家)、河内正三(二期会事務局長)、滝淳(東京コンサーツ代表)に西岡を加えた8氏。この顔ぶれを見れば「日本の音楽家」シリーズに対する主催者の“本気度”がうかがえよう。

     シリーズに登場した演奏家・作曲家は、第2回=海野義雄、藤原真理、鶴田錦史、三善晃、井上直幸、木村俊光▽第3回=酒井竹保、菊井松音、吉原すみれ、サウンド・スペース・アーク、ニューアーツ弦楽四重奏団、一柳慧・高橋悠治デュオ・コンサート▽第4回=一柳慧・高橋悠治デュオ・コンサート、柴田南雄、海老彰子、宗倫匡、沢井忠夫。まさに多士済々である。

     第4回に登場した「フェスティバル・アンサンブル」も話題を呼んだ企画だ。コンサートマスターは徳永二男、NHK交響楽団の楽員に加え古澤巌、堀米ゆず子、千住真理子ら若手のソリストも参加し、アイザック・スターン、江藤俊哉がソロを弾く豪華版だった。

    二期会オペラ「魔笛」の公演=東京文化会館で79年5月16日

     ほかにも、サヴァリッシュ指揮のNHK交響楽団がピットに入り、ペーター・シュライヤーなど外国勢をソリストに迎えた二期会オペラ「魔笛」(第2回)や「フィデリオ」(第4回)、東京楽所による雅楽のオープニング(第3回)など、注目された公演がいくつもあったにもかかわらず、音楽祭トータルとしての訴求力が十分でなかったことが惜しまれる。実は当時音大生であった筆者も第4回音楽祭の公演のうち、ミュンヘン・バッハ合唱団と管弦楽団、マウリツィオ・ポリーニ、アイザック・スターンの演奏会を聴いているが、残念ながら音楽祭を聴いたという意識も記憶もない。

    第4回東京音楽芸術祭のオープニングコンサート。サヴァリッシュ指揮のNHK交響楽団、ピアノ独奏はポリーニ=東京文化会館で81年5月6日

     「新芸が呼んだ外タレを並べただけ」「文化庁の助成金や寄付目当ての財団設立」など、とかく批判を浴び、マスコミの扱いも冷ややかだったこの音楽祭は、81年夏の新芸倒産で幕を下ろす。滅び行く音楽マネジャーの「あだ花」的な仕事と切り捨てるのは簡単だが、日本の音楽文化発展に寄与したい、との志の高さに基づいた新しい試みもあったことは知っておきたい。【野宮珠里】

    (文中敬称略、原則として文中の引用文は原表記のまま)

    ※原則として隔週土曜日掲載。次回は1月19日の予定です。

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