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小沢一郎氏/下 「坂の上の雲」 迫る変動の時代 もう一度「明治維新」を

愛読書について語る小沢一郎自由党共同代表=東京都千代田区の衆院第1議員会館で、山下浩一撮影
司馬遼太郎著。文春文庫。四国松山出身の秋山好古・真之兄弟と正岡子規の3人を中心に明治の日本を描いた。2009~11年にNHKでドラマが放映された。

ロングバージョン

「坂の上の雲」という題名をとても気に入っている。司馬遼太郎は「竜馬がゆく」も面白いが、これが明治維新を描いた司馬作品の集大成だと思う。

 今年は明治150年。今の価値観であれこれ批判する人もいるけれど、それでは過去のことはみんな無価値ということにならないだろうか。僕はとても大きな革命だったと思う。

 「眠れる獅子」と言われた清国(中国)がヨーロッパと戦って敗れ、領土は侵食され、権益は失った。その危機感が明治維新という大革命を生んだ。

おざわ・いちろう 自由党共同代表。衆院岩手3区。1942年生まれの76歳。69年衆院選以来、連続17回当選。自治相、自民党幹事長などを歴任。93年に自民離党。93年と2009年の政権交代の立役者。新進、民主などの党代表を務めた。慶応大卒。

 「斬り捨てご免」だった世の中を、文明開化の時代に変えた。西欧における近代革命と市民革命の2大革命をいっぺんに成し遂げ、西洋列強に「追いつけ追い越せ」と一丸になった。百姓でも商人でも、誰もが一生懸命努力すれば伸びることができる社会になった。階級が残る欧州に比べれば、当時としては比較にならないほど平等な社会になった。こういう社会を明治維新で作り上げたことが、日本発展の最大の原動力だ。そんな「坂の上」を目指した時代が好きだ。

 日本は明治維新という革命で新しい近代国家として(欧米と)対抗したが、結果として昭和で政策を間違えることになった。「坂の上の雲」に手が届きそうな状況までなったけれど、どのように世界の列強と対抗しつつ協調していくか、というその後の国造りについて大きな理念を持てなかったからだと思う。それはリーダーの欠如によるものだ。

 この作品では秋山兄弟という軍人2人と、正岡子規という俳人を中心に、日露戦争までの明治が描かれている。その後の日本は、軍人官僚と行政官僚がビジョンのない、理念のない、その場しのぎの世界政策を展開した。1929年の世界大恐慌の後、軍需景気に頼り、戦争を続けるしかなくなった。そのうち何もなくなってきて、なんとか打開しようとして米国に戦争を仕掛けてしまった。政治が軍人官僚と行政官僚に全て牛耳られて愚かな結果になったということだ。

 社会が大きくなるほど仕事の分化が始まる。官僚、政治家、軍人などに分かれる。だが、幕末から明治維新初期は偉大な軍人が偉大な政治家・官僚でもあり、あらゆるものを備えていた。大久保利通が内務卿として権勢を振るったのは、行政を全部把握できていたからだ。

 たとえば山県有朋は本当の修羅場、革命をくぐり抜け、長州の下級武士から元勲になった。僕は(初の本格的な政党内閣を率いた)原敬が好きだけれど、原は薩長から「白河以北一山百文」と侮蔑された東北・盛岡から立憲政友会の総裁になった。原は「山県が生きている限り日米戦争はない」と言っていた。もちろん、「そういう時代だからできた」という議論もできる。明治維新当時をそのまま持ってくるというわけにはいかない。ただリーダーのあり方を次の時代にどのように引き継ぐか、ということができていなかった。

 大久保は盟友の西郷(隆盛)さんまで討って鹿児島に帰れないぐらい憎まれ、最後は暗殺された。原も金脈政治家と言われて嫌われ、暗殺されてしまった。山県はもう少し軍閥を啓蒙(けいもう)して近代化しておけば良かったと思う。

議員会館の執務室にある書棚の前に立つ小沢一郎自由党共同代表=東京都千代田区の衆院第1議員会館で、山下浩一撮影

 原と山県の2人が(21、22年に)相次いで亡くなって「維新」が終わり、残ったのは「昭和残酷物語」だ。官僚や軍閥を抑えることのできた2人がもう少し生きていれば、もっと違う昭和史になったと思う。

 太平洋戦争に敗れた後、軍人官僚は排斥されたが行政官僚は生き残り、戦前以上に官僚組織が国民生活の隅々に行き渡った。政治家は官僚を活用できず、結果として政策を丸投げにした。

 今、米軍基地問題や原発問題で強力な利権集団が政官財学にできている。政治家が官僚と業者の癒着に何もできない。行政官僚の跋扈(ばっこ)が続いているということだ。

 明治、幕末ほどになるか、あるいはもっと大きいかもしれないが、北東アジアに変動の時が迫っている。その時、日本はもう一度維新ができるのか。

 僕も政権交代可能な議会制民主主義という「坂の上の雲」を成功させたかったが、現状まだできていない。政権交代をもう一度やらないといかん、と思っている。そんなに悲観する必要はない。「家貧しゅうして孝子(こうし)出(い)ず」「国乱れて忠臣現る」だ。「後生畏(おそ)るべし」。人材は必ず出てくる。

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