政府が国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を決めた。今後は日本の領海や排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨再開を目指すという。
しかし脱退に伴い政府が得られると主張する利益より、失うものが大き過ぎる。誤った判断と考える。
IWCで日本は長年、資源回復が確認できたとして商業捕鯨再開を求めてきた。だが、クジラを保護すべき野生動物と考える反捕鯨国との溝は深く、交渉は行き詰まっていた。
IWCにとどまっても商業捕鯨再開のめどは立たない。そこで、脱退によって商業捕鯨の道を開くというのが政府の主張だ。しかし、脱退すれば解決するというわけではない。
政府は来年7月から商業捕鯨を再開すると発表した。EEZではミンククジラなどを対象にするが、クジラは国連海洋法条約で国際機関を通じた管理が義務付けられている。
政府はIWCへのオブザーバー参加で、条件を満たせるという解釈だが、反捕鯨国が反発を強めて国際司法裁判所に提訴し、条約違反が認定される懸念は拭えない。
そもそも国内の鯨肉消費はピークだった1960年代の20分の1程度にとどまる。商業捕鯨を再開したとしても大規模な操業は望めない。
国内には宮城、和歌山両県などの伝統的な沿岸小型捕鯨もある。従来捕獲してきたツチクジラやゴンドウクジラなどはIWCの対象外だが、同条約の規制は受ける。
EEZでの捕鯨と同様、条約違反に問われる恐れも否めまい。脱退を契機にIWCの対象であるミンククジラの捕獲を始めれば、そのリスクが高まる可能性もある。
守るべきは、鯨食を「食文化」としてはぐくみ、維持してきた沿岸捕鯨である。今回、沿岸捕鯨が盛んな地域を地盤とする自民党の国会議員らが強硬に脱退を主張する経緯があった。しかし、脱退で沿岸捕鯨も危うくなるようでは本末転倒だ。
一方、クロマグロやサンマなどの水産資源保護を巡っては、日本は国際社会に協調を求める立場にある。脱退によって、そうした要請が説得力を失う心配もある。
戦後、日本の外交は国際協調を基調としてきた。その日本が変節したと見られる恐れもある。IWC脱退による損失は計り知れない。