メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

パイロット飲酒 人員不足、余裕のない勤務……現場の声を聞いた

英国で副操縦士が飲酒のため乗務できなかった問題で、記者会見して陳謝する日本航空の赤坂祐二社長=東京都港区で2018年11月16日、和田大典撮影
開業した羽田空港の新国際線ターミナル。24時間運用も本格化した=2010年10月21日午前6時49分、本社ヘリから西本勝撮影

 国内の航空会社でパイロットによる飲酒の不祥事が相次いでいる。10月には基準値を大幅に上回るアルコールが検出されたなどとして、ロンドン発羽田行きの便に搭乗予定だった日本航空の男性副操縦士が英警察当局に逮捕され、禁錮10月の実刑判決を言い渡された。国内でも機長の搭乗前日の深酒で、多くの便の発着が遅れる事態も起きている。一般よりも厳しい規律の下にあるはずの航空業界でいま、何が起きているのか。現役やOBのパイロットに話を聞いた。【和田浩幸/統合デジタル取材センター】

徹夜でフライト/「疲れたね」

 「時差がある中で長時間勤務する国際線は特に疲れがたまりやすい。路線や運航回数の増加に伴い、最近は1人当たりの勤務がタイトになっているのが実情です」

 大手航空会社の国際線で操縦かんを握る40代の男性機長は打ち明ける。今月のある日には午前11時過ぎにインドのムンバイに向け成田空港を出発。日本との時差は3時間半で、現地時間午後6時半(日本時間午後10時)ごろに着陸した。同僚と食事を済ませ、ホテルで床に就いたのは午後10時半(同翌日午前2時)ごろだった。

 この日は幸い7時間ほど眠れ、疲れを取ることができた。だが、日本では子どもを保育園に送るため午前5時ごろに起床するリズムが体に定着しており、海外にいてもその時間になると、はっと目が覚めてしまうことがあるという。

 さらに過酷なのは帰りの便だ。ムンバイ発成田行きは午後8時(同午後11時半)に出発し、到着は翌日午前7時過ぎだ。交代の操縦士はおらず、副操縦士との2人体制のため徹夜でコックピットに座り、8時間近いフライトでトイレ以外の休憩は取れなかった。「眠い」「疲れたね」。副操縦士との間でそう声を掛け合うこともあるという。

国際線の月間搭乗回数は以前の倍に

 男性機長は日本と世界の各都市を月4~5往復する。乗務時間は最大90時間に上り、フライトの間に1~3日の休日を挟むサイクルを繰り返している。

 この会社では、月に20日間出勤して10日間休むという勤務自体は以前と変わっていない。しかし8年前に同社を退職した元機長の男性によると、現役時代の長距離国際線の搭乗回数は月に2往復から2往復半程度。それ以外は体力的に負担の少ない国内線に搭乗したり、交代要員として空港で待機したりしていたという。「昔は乗務時間が月80時間を超えるようなことはなかった。不規則な勤務は国際線パイロットの宿命だが、だからこそ体調管理は重要で、勤務に余裕がないのは問題だ」

パイロット不足、男性機長「限界ぎりぎり」

 羽田空港では2010年に4番目の滑走路がオープンし、長期的な航空需要の増大に対応するため24時間運用も本格化した。これに伴い、地方空港も羽田とのネットワークで柔軟なダイヤ編成を行って外国人観光客を誘致しようと、次々と運用時間を延長している。パイロットの勤務がタイトになったのはそんな事情が背景にあるとみられる。

 国土交通省によると、17年の旅客輸送人数は国際線が約2214万人で09年(約1539万人)より44%、国内線は約1億185万人で同年(約8398万人)より21%増えた。国内主要航空会社のパイロット数も、11年1月時点の5522人から今年1月時点は6538人に増加したが、国交省の関係者は「不足感がある」と言う。

 別の航空会社に勤める50代の男性機長は「運航回数が増えただけでなく、羽田の24時間化などで深夜や早朝の勤務も増えた。パイロット不足の影響で一人一人が限界ぎりぎりまで働いているのが現状だ」と訴える。

「昼と夜の勤務で疲労が違う」

 国内の航空会社にある13の労働組合で組織する「日本乗員組合連絡会議」が16年に実施したパイロット対象のアンケートによると、回答者222人のうち98%の217人が「昼間と夜間・深夜の勤務では疲労が違う」と答えた。その理由として「勤務前に眠れず疲労を持ち越したまま乗務せざるを得ない」「乗務環境が日中と違うため緊張を強いられる」などが挙げられた。

 同会議は「需要増に合わせて利用者の利便性を高めることはいいことだが、ストレスの要因は疲労以外にもさまざまな背景がある。パイロットの置かれた環境をきちんと分析し、対策を講じる必要がある」と指摘する。

ロンドンで逮捕の副操縦士「酒で解決しようとした」

 国交省によると、乗務前のパイロットに飲酒の影響が残っていることが発覚したケースは13年1月から今年11月末までに計41件に上り、1件が欠航、22件に遅れが生じた。全てにおいて勤務との因果関係があるわけではないが、ロンドンで逮捕された日航副操縦士の弁護人は現地の裁判で、「仕事で家族と長期間離れる寂しさに加え、不規則な勤務時間などによって不眠症に陥り、酒を飲んで解決しようとした」などと主張した。

 こうした事態を受け、国交省は11月、飲酒基準を巡る有識者検討会を設置。国内の航空会社に乗務前のアルコール呼気検査を義務付け、反応が出た場合は数値にかかわらず乗務禁止とするルールを導入する方針だ。

専門家「疲労、ストレス、睡眠を含む総合的な対策を」

 元日航機長で航空評論家の小林宏之さんは「乗務前に飲酒の影響を残すのは自己管理ができていない証拠。安全を考えれば基準の導入は必要だ」と語る。

 ただ、パイロットは着陸時に強い緊張を強いられ、乗務後も神経が高ぶって眠れなくなることがよくあるという。「基準に抵触しない時間と量であれば、お酒はリラックスのために有効な側面もある。睡眠不足になってしまっては次のフライトで判断力が低下しかねない」と語る。そのうえで「飲酒問題の背景には、パイロットに過酷な勤務を求めている構造的な課題がある。飲酒の管理にとどまらず、疲労やストレス、睡眠などの管理も含めた総合的な安全対策が求められる」と指摘した。

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 大坂なおみ選手の肌白く表現 日清食品が謝罪と米英紙
  2. スバルが国内生産停止 ハンドル補助装置に不具合
  3. 女子中学生が意識不明 殺人未遂容疑で母親を逮捕 前橋
  4. 鉄道事故 インフル感染、線路に転落か 女性死亡 東京・中目黒駅
  5. 日露首脳 思惑の差はっきり 領土交渉の長期化は不可避か

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです