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社説

次の扉へ AIと民主主義 メカニズムの違いを知る

 年が改まり、希望を更新して世界は再び動き出す。ネット上を飛び交うメッセージも格別なはずだ。

     「情報爆発」の時代と言われる。スマートフォンという高性能コンピューターを多くの人が持ち歩き、デジタルデータの流通量が年ごとに飛躍的に増えていく状況を指す。

     「いいね」を押したり、誰かを検索したり、今やネットサービスは必需の生活インフラになっている。

     だが、膨大な個人データをAI(人工知能)が処理するとき、私たちは思いがけない事態に直面する。

     民主主義との緊張関係である。

     議論を呼び起こしたのは、英選挙コンサルタント会社ケンブリッジ・アナリティカの不祥事だ。

    選挙に応用可能な情報

     2016年の米大統領選に際してフェイスブックから最大で8700万人分のユーザー情報を入手し、トランプ氏が有利になるよう操作した疑惑が昨春持ち上がった。

     同社は不正を否定し、影響の程度は分かっていない。ただ、トランプ氏の元側近スティーブ・バノン氏が経営陣にいたことから、サイバー空間の暗部として注目を集めた。

     プラットフォーマーと呼ばれるグーグルやフェイスブックの主な収入源は広告だ。利用者のネット履歴を基に、細かく狙いを絞った広告の配信をビジネスモデルにしている。

     利用者は無料でサービスを受ける代わりに、好みなどの個人情報を差し出す。それがビッグデータとして集積された段階で莫大(ばくだい)な市場価値を生むように設計されている。

     強力なAIは利用者の消費性向を知り尽くそうとする。その精度が高いとしたら、政治分野に応用することは容易だろう。ケンブリッジ社の例がそれをうかがわせた。

     人類は過去にも情報爆発を経験している。15世紀の印刷技術発明や20世紀に登場したテレビ放送だ。

     ただ、デジタル革命による情報爆発の特質は、その量が膨大過ぎて人間が共有できなくなったことだ。情報の海に飛び込んだ人間は、好みの情報にすがる。そこにフェイクニュースが紛れ込み、AIでカスタマイズされた情報が追いかけてくる。

     脳科学者の茂木健一郎氏は「情報爆発と個々人の処理能力のギャップに目をつけると、悪用を含めいろんなことができる。その意味でAIが人間を超すシンギュラリティーはすでに起きている」と指摘する。

     インターネットが普及し始めた当初、IT(情報技術)は情報格差をただし、人を水平方向につなぐ技術と思われていた。「eデモクラシー」という夢の構想も語られた。

     ところが、ビッグデータとAIの組み合わせは、巨大IT企業群とユーザーを垂直に再編している。

     政治的に見れば、SNS(交流サイト)は人びとの不満を増幅させて社会を分断する装置にも、権力者が個々に最適化させたプロパガンダを発信する道具にもなり得る。

     民主主義の価値は試行錯誤を重ねるプロセスにある。人間は一人ひとり違うからこそ、対話を続けて集団の共感を維持しようとする。処理の速さと分類を得意とするAIとは根本的なメカニズムが異なる。

    リアルな肌触りが必要

     兵庫県・淡路島の仁井(にい)地区は標高200メートルに位置する農村だ。住民約500人のほとんどは高齢者。仁井小学校は9年前に廃校となった。

     その校舎が2年前、日本語学校「日本グローバルアカデミー」に衣替えした。淡路市が地元と協議を重ねて決まった。今はベトナム人43人、モンゴル人2人の若者が学ぶ。

     限界集落と外国人。市側はその組み合わせを心配したが、逆だった。地区の農家が特産の玉ネギを学生に届ける。近くの空き家に寄宿する学生は道ですれ違う住民に「お早うございます」とあいさつをする。

     世話役の人形寺(にんぎょうじ)祥弘さん(74)は「自分たちが学んだ校舎に来てくれたから後輩のように思う」と語る。民主主義は土台の部分でこのような共感を必要とするものだ。

     私たちはこれまでAIに対し無防備過ぎたかもしれない。ギリシャの歴史家は放縦な民主制が衆愚制や独裁制に移る「政体循環論」を説いたが、AIが「ポスト民主主義」の引き金を引くシナリオは悪夢だろう。

     議論をする。互いを認め合う。結論を受け入れる。リアルな肌触りを省いたら民主主義は後退する。

     平成が間もなく幕を閉じ、冷戦の終結からも30年がたつ。次なる扉の向こうには何が待っているのか。

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