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2016(平成28)年、人気歌手ジャスティン・ビーバーさんがツイッターで紹介した45秒の動画は、世界中を駆け巡った。「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」。派手な衣装の中年歌手ピコ太郎がテクノ風の曲に合わせて踊る姿を、誰もが一度は見ただろう。“ピコ太郎現象”は、メディア環境が劇的に変化した「平成」だから生まれた。プロデュースする青森出身のお笑い芸人、古坂大魔王さん(45)にとっての「平成」とは。【井川加菜美】
――平成元年の1989年、古坂さんは16歳。既に青森東高校の文化祭でライブをやったり、東京のコント番組に出たりもしていた。そして、18歳の時、寝台列車に飛び乗り上京する。
青森って劣等感というか、東京に出て成功するのは難しいと思い込んでいると思うんです。それが子どもの頃は悔しかった。野球選手やお相撲さん、俳優さんに成功した人はいたけど、お笑い芸人にはいなかった。これだ、と。でも、東京に出たらとんでもないところで。くりぃむしちゅーさんとか、ネプチューンさんとか。青森では直球を投げたらみんなバットを振ってくれるのに、東京では僕と同じスピードの球を投げる人間が、カーブもシュートもフォークも投げる。そういう人がわんさかいた。あの打ちのめされた時のインパクトはすごかったです。でも、16年のPPAP現象はそれをはるかに上回るものでした。

――昭和の終わりはテレビやラジオが主流だった。だが、この30年間にパソコンが普及し、携帯電話、スマートフォンへ。モバイル端末の通信速度は高速の4Gが主流になった。ソーシャルメディアの普及はピコ太郎の爆発的なヒットを生んだ。
あの動画がアフリカからヨーロッパ、アジアまでみんな知っているなんて今も信じられなくて。だから、僕の中で平成は「平静」じゃなくて、「混乱」なんです。世の中には「道を作る人」と「道を進む人」がいると思うんです。テレビができたから力道山が出てきた。ラジオがあったから吉田照美さんがいた。テレビがお茶の間になじんだから、ビートたけしさんがいて、とんねるずさんやダウンタウンさんがいる。僕の時はスマホだった。実はスマホの前からパソコンで一生懸命、ラジオコントの配信とかしてたんです。でも今みたいに外では聴けないし、はやらない。だから、どこにいても動画や音楽を楽しめる4Gの登場は大きな転換点でした。そしてユーチューブ。インフラができた瞬間、世の中の人はそこに誰がいるんだろうって探すんです。
――ピコ太郎はそこにいた。メディア革命は古坂さんの人生を変えた。もう一つ。11年の東日本大震災がある。エンターテインメントにできることは何かという問いがあった。
3.11の後すぐ、東京の代々木公園に芸人が集まってライブをやりました。あの時、テレビから一切の笑いが消えて、みんなへこんでいた。不謹慎という言葉がありました。事務所も「やめろ。クビになるぞ」って。でも、来てくれたお客さんがめちゃくちゃ笑ってくれた。普段は滑りまくっている芸人が超ウケてた。笑いたいという人がいたんです。その時、世の中的には不謹慎でも僕らの仕事はやっぱり人を笑わせることだと再認識した。そこから福島や宮城に行きました。ピコ太郎の歌で子どもが笑ってくれた。「気を使わないでくれてありがとう」と話してくれた。芸人なんて世の中の役に立たないという無力感もあったけど、必要としてくれたんです。人を喜ばせたいという気持ちが強くなりました。
――上京から30年近く。平成は間もなく終わりを告げる。次の時代をどうとらえるべきか。古坂さんは楽しそうに語る。
スマホの隆盛はまだ続くでしょう。そのうち「脳内」になると思います。スマホ的なものを瞳孔とか、歯に埋め込んだりなんてことも出てくるんじゃないかな。それくらい想像もつかないことがこれから起きると思います。
全世界はもう一緒になったんです。ドラム演奏で有名になった黒石市のゆるキャラ「にゃんごすたー」は、青森にいるのにXJAPANの世界的ドラマー、YOSHIKIさんとつながった。青森にいても東京にいても、同じものを発信できる。僕が子どもの頃に見ることはできなかった世界を、今は見ることができる。自分の周りを見て、そのレベルに合わせるんじゃなくて、世界を見て、世界のレベルに自分を合わせていってほしい。それを続けていけば、かつて僕も持っていた劣等感なんて消えるはずです。
こさかだいまおう
青森市出身。1973年7月17日、3人兄弟の次男として生まれる。92年、お笑い芸人トリオ「底ぬけAIR―LINE」としてデビュー。現在は古坂大魔王としてさまざまな分野で活躍する。mihimaruGTやAAAなどとのコラボや楽曲制作を行うほか、ピコ太郎のプロデューサーも務める。1月末に「ピコ太郎のつくりかた」(幻冬舎)を出版予定。