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吉村芳生展 色彩の発見 東京ステーションギャラリー

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 <出かけてみませんか 毎日新聞社の催し>

 現代アートシーンに鮮烈な印象を残す「吉村芳生 超絶技巧を超えて」を東京・ステーションギャラリーで開催中です。会期も後半。700点を超す作品群が、来場者をとりこにします。前回に続き、冨田章・同ギャラリー館長の作品解説をお届けします。

「コスモス」

 吉村芳生は20代後半を東京で過ごした。創形美術学校で版画を学び、国内外の数多くの展覧会に出品して入選し、新聞や雑誌でも度々取り上げられるなど、現代アートの若手作家の一人として注目されていたようだ。写真を独特の方法でトレースする吉村の手法は、ポップアートやスーパーリアリズムなどアメリカ美術の影響を強く受けた1970年代の現代アートの文脈の中で、一定の評価を得ていたのである。

 しかし絵だけで生活するのは容易ではなく、85年に故郷の山口に戻り活動を続けた。

 しかし、ここで長いスランプに苦しむことになる。描くべきモチーフを見失ってしまったのだ。自然に囲まれた環境で、東京時代に描いていた通りや駐車場といったモチーフが描けなくなり、一方で田舎の風景も描く気がしなかった。生活にも苦労したつらい時代だったようだ。

 そんな中で彼が出合ったのが、休耕田に咲くコスモスの花々であった。この時、同時に色を「発見」したことが、彼の作品を一変させることになる。白と黒のモノクロームの世界から、色鉛筆による鮮やかな色彩の世界へと大きな一歩を踏み出したのである。

「無数の輝く生命に捧ぐ」

 色鉛筆で花を描くようになっても、写真に鉄筆で方眼を書き入れ、ひとマスごとに忠実に写しとっていくという吉村の方法は変わらなかった。

 この作品では、ある建物のフェンスに沿って咲いていた藤の花を、何枚もの写真に分割して撮影し、それを横に長くつないで全体を構成した。そして建物やフェンスを除いて、藤の花だけを写していった。

 吉村はこの花ひとつひとつを、東日本大震災で亡くなった人々の魂と思って描いたという。

「バラ」

 本当に色鉛筆だけで描いたのか?

 この絵を見た多くの人が抱く感想だ。確かに微妙な色調の変化や、繊細に描写された花びらの艶っぽいまでの輝きなどは、色鉛筆だけで表現されたものとはにわかには信じがたい。これを可能にしたのが、ファーバーカステル社製の120色の色鉛筆を駆使した吉村芳生の精妙な技術である。

 生前に吉村が使っていた色鉛筆を見ると、芯を細くとがらせたり、太いままに残したり、削り方が工夫されていることがわかる。描く部分の状態に合わせて、これらを巧みに使い分けていたのだろう。さらに色を塗り重ねたり、タッチを変えたりすることで、無限の色調と多様な質感が表現されているのである。


 <会期>20日(日)まで。午前10時~午後6時(金曜は午後8時)。入場は30分前まで。休館は1月7日(月)<会場>東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1、JR東京駅丸の内北口)<入館料>一般900円、高校・大学生700円、中学生以下無料。


 t.jigyou@mainichi.co.jp

 主催 東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)、毎日新聞社

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