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社説

次の扉へ 冷戦終結から30年 融和と協調を求める年に

 ゴルバチョフ・ソ連最高会議議長兼共産党書記長はオレンジ色のノートを開いて言った。「きょう、私たちは歴史の分水嶺(ぶんすいれい)にいると感じている」。目の前にいるのは米国のブッシュ父大統領。1989年12月、マルタで行われた米ソ首脳会談だ。

     その前月、ベルリンの壁が崩れ東西ドイツは統一に向かった。世界は変わりつつある。ゴルバチョフ氏は、米ソは「連合体」ではないけれど「新たな現実に対して協力の様式がなければならない」と力説した。

     スコウクロフト元大統領補佐官との共著「変貌した世界」(AWorldTransformed)で、ブッシュ氏がそう書いている。この会談で冷戦は終わりを告げ、ソ連は2年後に崩壊してロシアに衣替えする。

    強まる大国同士の対立

     「協力」の試金石はすぐ訪れた。翌90年8月、親ソのイラクがクウェートに侵攻した際、ゴルバチョフ氏は米側につく。ブッシュ氏が国連安保理の武力行使容認決議を得てイラク軍を破り、クウェートを解放した背景にはソ連の側面支援があった。

     「冷戦後」の滑り出しは順調だった。だが、マルタ会談から30年、今の世界はどうか。ロシアはウクライナ領のクリミアを占領して編入を宣言、経済制裁を科されて米国と対立している。核軍縮も進まない。米トランプ政権は、87年に米ソが結んだ歴史的な中距離核戦力(INF)全廃条約も破棄する構えだ。

     米露関係だけではない。米中は通商問題を中心に激しく対立し、3国(米露中)が軍事でも張り合う姿勢を見せる中、ゴルバチョフ氏が言った「協力の様式」は影が薄くなった。世界のトレンドは協調から対立の方へと向かって久しい。

     そもそも冷戦とは、そして冷戦終結とは何だったのか--。

     米ソが仲良くできるはずがないと、いち早く予言したのは、太平洋戦争中の日本の将校だった。

     45年3月、米軍の猛攻の前に陥落寸前の硫黄島にいた市丸利之助少将は、時の米大統領に宛てて日英両文で「『ルーズベルト』ニ与フル書」を書いた。米軍が発見した書簡の一節を口語で要約するとこうなる。

     「米国がナチス・ドイツのヒトラーを倒してもスターリンを指導者とする(世界の社会主義化をめざす)『ソビエト』と協調していけるのか」

     「米国は世界制覇の野望を達成しようとしているが、強者が世界を独占するなら永久に闘争が繰り返され、人類に安寧幸福の日は来ないだろう」(平川祐弘著「米国大統領への手紙 市丸利之助伝」)

     皇国史観に彩られているとはいえ、市丸の書簡は、玉砕を前に透徹した視線で世界を見渡している。

     実際、それから1年もたたぬ間に(46年2月)、スターリンは米国などを厳しく批判した。独占資本主義は経済発展と政治的権力を求めるから、第二次大戦などの武力紛争を引き起こす危険性を必然的に内包している、というのだ。社会主義の優越性を強調する演説は、冷戦がすでに始まったことを示していた。

    「理念疲れ」の傾向も

     こう考えると、マルタ会談での米ソの歩み寄りがいかに貴重かが分かる。イデオロギー対立を卒業して共存と協調をめざす理念が確かにあった。冷戦後の30年は、理念の力が次第に薄れ、現実的利益を追う傾向が強まっていく歴史とも映る。

     そして、トランプ政権の誕生とともに、少数者や弱者への配慮が影を潜め、本音をむき出しにする行動形態が一気に表面化したように思える。真実などどうでもいいと「代替的事実」を主張し、都合の悪い報道を「フェイク(偽)ニュース」と決め付ける風潮も頭をもたげた。「理念疲れ」である。

     一方では、中東や中南米などから欧州や米国を目指す人々が後を絶たず、繁栄した地域に貧者が群がる構図が明確になった。中東の独裁政権が崩壊する一方で、過激なイスラム思想が広がった。移民やイスラムをめぐる問題の答えは、世界が知恵を集めないと見つけられない。

     さらに米国が「世界の警察官」たる座を降り、米中露が覇権を狙うなら、世界は分裂し、対立と憎しみの連鎖に落ち込むしかない。私たちは新たな「歴史の分水嶺」に直面しているのではないか。

     今こそゴルバチョフ、ブッシュ両氏が確認した「協力」の大切さを思い出すべきだ。共存への理念を再確認し、融和と協力に向かう道筋を探りたい。

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