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晴レルデ

おもい-つくる/6 にぎやかに追慕の杯

築山敬志朗さん=大阪市中央区で2018年3月13日、川平愛撮影

 アサヒ精版印刷の会長、築山敬志朗さんが亡くなってちょうど1カ月後の咋年12月20日、マリさん(築山万里子さん)とバーでばったり会った。スタッフの佐伯尚平さん(46)も一緒だった。

     「私、一回も泣いてないねん」とマリさんが言うと、「アサヒのみんなも、そうちゃいます?」と佐伯さんが返す。めいっぱい働いて、めいっぱい遊んで……。「ほんまにやり残したこと、ないと思う」(マリさん)という生きざまが、湿っぽさを遠ざけてるかのようだ。

     「最後の会話がね」とマリさんが含み笑い。「亡くなる1週間くらい前かなぁ。パパに前から聞きたかったことがあって。じっくりしゃべる親子でもないから、今まで聞く機会がなかったんです」。で、聞きたかったことって?。 「会社継いでなかったら、何したかっ?って」

     そしたら? 「ニヤッと笑って、しゃがれた声で『サラリーマン』。うそっ!って噴き出した」。パパの声色をまねしたマリさんにつられて、思わず笑ってしまう。

     「音楽好きやったから、そっちやとばっかり思てたんやけど。でも爆笑してから、なるほどと思たんです。父親に引っ張られて大学やめて社長業させられて。印刷機なくしたり業界のパイオニアやったから、評価される立場になったことない。自分がどんなもんか、試してみたかったんとちゃうかな。資金繰りの心配せんと、給料もらって」

     マリさんが生まれた時、徹夜マージャンでいなかったりという自由人とサラリーマンの取り合わせは想像すらできないが、人は正反対のものを望むのかもしれない。あるいは人生最後のとっておきのギャグだったのか……。ともあれ、パパはマリさんとママに手を握られ、眠るように旅立ったそうだ。

     そう言えば、パパが出歩けなくなった頃、コピーライターの村上美香さんが話してくれてエピソードがある。美香さんが事務所近くの道頓堀を犬と散歩してたら、昔お世話になったテザイン会社の元社長とばったりと出会った。ババの大親友だったから「ツキさんがしんどそうなんですよ」と伝えたら、「必ぞ近々会いに行くから、今日俺に会ったことは言わんといてくれ」。

     その時を振り返って、美香さんはこう言うのだった。「その瞬間がうれしくて。木の葉がひらりと落ちたみたいに、私と元社長が会って、ツキさんのことを言う運命なのかなと胸がいっぱいになって」。その後、元社長はババを訪ね「あと5年は生きよう」と励ましたそうだ。「男同士の縁をちょっとだけ、つなげたかな」と美香さん。さりげない、いい話だなと思った。

     話はバーに戻る。「小いさいころから勉強せえと言われたことない」というマリさん、3年前にパパから社長を継いだが、その時も何も言われなかったという。「ほったらかし!」とマリさんが破顔してグラスを干す。「会社でもそんな感じでした。怒られたことない」と佐伯さんが言えば、「野放し」とマリさんがちゃちゃを入れる。「でも、最後は俺がケツふいたるって、いつも言うてて。それに計算機より暗算が速かった」。最終判断は皆、パパに仰いでいたという。ひとしきり笑った後、「万里子に(社長を)譲っといて良かった言ってたって、ママから聞きました」と、ちょっとだけしんみり。

     その夜は、たまたまパパのゆかりの人が何人か来ていて、にぎやかなことが好きだった故人をしのび、一同でにぎやかに献杯したのだった。<文・松井宏員 デザイン・シマダタモツ>

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