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毎日フォーラム・視点

日本産前産後ケア・子育て支援学会理事長 林謙治

林謙治氏

少子高齢化の地域医療 産科・高齢者診療に柔軟かつ抜本改革を

 日本の出生率の低下が続く中、出生数は2016年に100万人を割り戦後最低となった。産科施設も同様に減少し続けている。都市部では大病院に分娩が集中し、地方の小都市では若年人口の流出や産科医師不足のために、施設を維持することが困難な状況にある。私が以前、厚労省地域医療再生基金委員会のメンバーとして東北、北海道を視察した際、産科施設がまったくない地域の妊産婦の大変さを痛感した。

     例えば、福島県の南会津地方では妊産婦が出産予定日に近づくと施設のある会津若松市のホテルに泊まりこみ、陣痛がくるまで待機せざるを得ないのである。北海道の上川地区は四国ほどの面積を有するが、状況は一層厳しい。冬季は移動が困難なため、妊産婦は早々と旭川市まで出かけ長期間滞在を強いられる。

     近年、小都市では、公立病院さえ産科施設の閉鎖の危機に追い込まれている。施設があっても産科医師の確保ができないためだ。産科医師は東京はじめ大都市に集中しており、東京近県でさえ医師不足が顕在化している。

    産婦人科医が毎年300人減少

     日本産婦人科学会の最近の集計によれば、高齢医師を中心に毎年約700人が退会しており、おそらく廃業もしくは死亡によるものと推察される。若い医師の入会は毎年、350~400人の登録にとどまっているため、差し引き年300人以上の減少である。

     男女別では50歳以上に男性医師が圧倒的多いが、妊産婦は同性医師を求める傾向もあり、50歳以下では女性医師が50%を超えている。一方、女性医師は自ら出産育児などの事情があり産科施設から退職することが多く、復職後は夜間当直のない婦人科に従事する傾向がある。産婦人科医師全体として登録数の6~7割程度が実際に分娩を扱っているに過ぎないのだ。

     地方の産科施設・医師の絶対不足を解決するには思い切った改革を行う必要がある。医師に比べると助産師は毎年1000人程度の資格取得者が登録されている。地方の産科施設は広域をカバーするバースセンターに切り替え、院内助産院の開設を積極的に推進する方策は一考に値する。高齢出産者が増加しているとはいえ、出産の大半は正常分娩である。助産師には従来よりも医療処置の権限を法的に保証し、医師はハイリスクの妊産婦に絞って対応する提言は現実的である。

     周辺に産科診療所が存在している場合は、オープンシステムにすれば日常の健診は診療所で、分娩はバースセンターでという仕組みや院内開業を許可するのも方法ではないか。

     民間病院であれば社会医療法人の規制緩和で、一定数の分娩数を扱っていれば認可するくらいの思い切った改革があってもいいと思う。社会医療法人は、本来救急医療や周産期医療など、不採算部門を公的病院の代わりに担う民間病院が認可されている。固定資産税の軽減措置や営業利益を上げることが認められている。正常分娩は健康保険が適用できないので制度的に不合理ではないはずである。

    救急搬送の57%が高齢者

     少子高齢化の一方が出産問題であるならば、その対極にあるのは高齢者医療である。近年、在宅医療推進の方向で進んでおり、救急需要はますます高まると推測される。消防庁統計によれば16年では搬送人数は560万人を超え、1996年時に比べると1.8倍に増えている。

     搬送事由の64%が急病であり、交通事故は8.5%まで減少した。急病の内訳は肺炎、大腿骨折、脳梗塞が上位を占め、高齢者関連の疾患が中心となっている。年齢別でみても高齢者搬送が57%と過半数を超えている。25年までに団塊の世代が後期高齢者に突入するので、今後救急医療需要の増加は明らかである。そういう意味で救急医療の在り方は今後高齢者医療にどのように対応するかという政策的課題に直結している。

     2次救急医療の施設数は厚労省統計では横ばいであるが、消防庁統計では減少している。おそらく救急医療施設の定義が異なるためだと思われるが、厚労省定義では技術レベルを重視しており、消防庁統計では救急搬送との関係で定義している。

     消防庁統計での2次救急施設の減少は不採算に陥りやすい民間病院が中心であろう。民間病院の救急受け入れ数は全体の6割あり、救急からの撤退は公立病院や救命救急センターにしわ寄せされ、公的施設の本来機能を損なうリスクもある。さらに3次救急医療が外傷・交通事故を中心にすえたシステムであるので、これを含めて救急医療システム全体について見直す必要が出てこよう。

     2次救急病院の診療報酬体系は、入院7日間に限り救急医療管理加算は、重篤の場合1日900点(9000円)、それに準ずる場合は300点(3000円)となっている。これ以外にも総務省の救急医療に対する助成制度がある。本制度は昨今の救急受け入れ不能に係る患者死亡事故を受け、08年12月に総務省は、(1)救急告示病院である公的性格を有する民間病院(公的病院)に対し、そして11年3月に(2)すべての私的2次救急医療機関に対し地方交付税の中の特別交付税制度として予算措置を行うことになった。前者の(1)については、3290万円+救急病床×169.7万円、後者の(2)については、救急搬送受け入れ傷病者数1人につき1.3万円を措置する制度を創設した。これは重篤患者加算の1.5日分、重篤に準じる患者加算の4日分に相当する。

     制度が創設されてからすでに10年経過しており、公的病院への助成は一定のペースで伸びてきた。しかしながら、私的病院への助成制度の創設はそれよりも3年遅れとは言え、自治体関係者や病院側でもよく知られていないようであり、全国においてほとんど活用が進んでいない状況にある。本制度は、厚労省の特定財源である国庫補助金制度ではなく、総務省の地方交付税制度の中の特別交付税という一般財源が財源となっていることが影響しているかもしれない。

     また、本制度の申請は、各自治体が総務省に申請することで財源の措置がなされるため、助成要件を満たしている病院であっても、病院から直接総務省に申請することはできず、自治体を通して申請することになる。そのため、制度活用には自治体との折衝が必要となり、手続き上の煩雑さは活用をためらう要因となり得ると考えられる。

     出生と高齢化に関わる社会保障は21世紀社会の最大な課題であり、そのなかでも生死に直接関わる医療システムは今や危機的な状況に瀕している。これを乗り切るためにも今後問題の本質をみつめた政策的な展開を期待したい。

     はやし・けんじ 1945年東京都生まれ。71年千葉大医学部卒。公衆衛生専攻後、産婦人科診療に従事。厚生労働省国立保健医療科学院保健統計人口学部長、同院長を務めた。在職中、途上国プロジェクトに参加する一方、国内では地域保健ガイドライン、終末期医療ガイドラインなどをまとめた。退職後老健施設・産科診療に携わり、現在AGS税理士法人ヘルスケア事業部顧問。介護老人保健施設「船橋スターチス」施設長も務める。

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