メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

毎日フォーラム・特集

「画期」の年 安倍長期政権の敵は「油断」と「飽き」

見送る人たちに手を振られる天皇、皇后両陛下=高知県南国市の高知空港で2018年10月29日

 「平成」最後の年である。4月に天皇、皇后両陛下の「象徴」としての30年余りのお務めが終わり、5月から次の元号の時代に引き継がれる。日本が絶頂のバブル経済から転落し「失われた20年」を経て、深刻化する少子高齢化社会を迎えた“経済大国ニッポン”に停滞感が漂う。また、中国の台頭に伴う米国との覇権争いが激化するなど国際情勢が混迷を深める中で、日本の立ち位置が問われる。そのような「画期」の年に、安倍晋三政権は政治、外交、経済でどのようにかじを取るのだろうか。

     「ボーっと生きてんじゃねーよ!」

     昨年末に東京都内で開かれた外交・安全保障の専門家による勉強会で自衛隊OBが口にしたのは、新語・流行語大賞にノミネートされたNHK番組「チコちゃんに叱られる!」の名セリフ。「私は安倍政権を支持する立場だが、今の安倍政権にはこう言いたい。このままでは日本は孤立しかねない。1、2月は重要な時期になる」と続けた。

     安倍首相は今年、第1次政権から数えれば8年目。在任期間は11月20日に桂太郎の2886日を抜いて憲政史上最長に躍り出る。そんな長期安定政権にとって、最も警戒すべきは自身の油断と国民の飽きだろう。

     1月にまず予定されているのが首相のロシア訪問だ。首相は北方領土交渉の決着を目指すうえで大きな節目と位置付ける。6月に大阪で開かれる主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の際にはプーチン大統領が来日する見通しで、そこで平和条約の締結に合意できれば、戦後日本外交の画期となるとともに、夏の参院選へ向けて大きな成果としてアピールできる。

     問題となるのは、首相の目指している決着の中身だ。

     昨年11月のシンガポールでの日露首脳会談では、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。宣言には平和条約の締結後に歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すことが明記されている。

     北方四島のうち国後島と択捉島は諦めて「2島返還」で妥協するという首相のメッセージを国民はどう受け止めるのか。首相は報道各社の世論調査などを注視しながら、勝負をかけようとしている。

     ただし、くだんの自衛隊OBが懸念しているのは日露外交の勝負の行方ではない。国民の評価でもない。米国がどう受け止めるかだ。

     トランプ米政権が一昨年に発表した国家安全保障戦略は中国とロシアを「米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力」と位置付けた。そのロシアにすり寄り、ロシアが軍事拠点化を進める国後・択捉の領有を事実上、容認しようとしているのが安倍政権だ。しかも、返還後の歯舞・色丹に米軍基地を置かないことを約束したとも報じられている。

     ロシア側はまだ2島返還に応じるそぶりも見せていない。米国が安全保障戦略上の脅威として名指ししているロシアに一方的に屈するかのような安倍政権の振る舞いを、トランプ大統領は「シンゾーは友だちだから」と言って大目に見るのだろうか。長年、日米同盟の最前線で中国、ロシアと対峙してきた自衛隊OBの立場からすると「とんでもない」となる。

    自己都合優先の落とし穴 参院選で負ければ退陣も

    臨時国会が閉会し、記者会見で質問に答える安倍晋三首相=首相官邸で2018年12月10日

     中国に対してもそうだ。

     米国はいま中国との貿易戦争の真っただ中にある。歴代の米政権は、中国の経済発展を支援すれば、いずれ中国の政治も民主化され、米国を中心とした戦後国際秩序に組み込まれると考えてきた。しかし、その期待は裏切られた。

     中国は不公正な手段で米国の先端技術を盗み、経済的にも軍事的にも米国に対抗する覇権国家たらんともくろんでいる。米国はそれを断じて許さない。そう宣言したのが昨年10月にペンス副大統領が行った演説だった。

     欧州各国はその前から中国の唱える経済圏構想「一帯一路」と距離を置き、中国の覇権主義を批判していたが、その傾向は今、より鮮明になっている。日本は一人、それと逆行しているように映る。

     ペンス演説から間もない昨年10月下旬、安倍首相は中国を公式訪問し、習近平国家主席との会談では一帯一路構想への協力を表明した。今年6月のG20サミット前後には習主席が日本を公式訪問することも固まり、長らく首脳の相互訪問が途絶えていた日中関係は急速に改善へ向かっている。

     米国からは対米貿易赤字の削減を求められてはいるけれど、最新鋭ステルス戦闘機F35を100機以上も追加購入することにしたから大丈夫。参院選のことを考えれば、中国との貿易拡大という経済界の要望には応えておきたい。何よりも長期政権のレガシー(遺産)になる大きな外交成果が欲しい。2島返還でもいいから北方領土問題を決着させられたら、内閣支持率アップも期待できる。そして、参院選を乗り切ればいよいよ念願の憲法改正だ--。

     こんな自己都合優先のシナリオを安倍首相が描いているように見えるから、冒頭の自衛隊OBでなくてもチコちゃんの言葉を借りたくなる。

     昨年末の勉強会には陸海空自衛隊のOBや研究者、ジャーナリストらが参加し、米国が中国に対して仕掛けているのは「戦争」だという認識で一致した。軍事力は使えないから、経済戦争で中国を抑え込もうとしている。

     昨年12月の米中首脳会談では今年2月末まで知的財産保護などの問題について協議を続けることで合意したが、米側が妥協することは考えにくく、中国に対する最後通牒(つうちょう)と見る向きもある。米国と対抗する軍事・経済覇権を追い求めるのはもう諦めろという脅しだ。

     勉強会では日本政府が国民についている「ウソ」も話題になった。米国からは包括的な自由貿易協定(FTA)交渉を求められているのに、国内向けには輸入品の関税引き下げに限定した物品貿易協定(TAG)交渉だと説明している問題だ。

     日本としては、米国が一方的に離脱した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を超える優遇措置をとるわけにはいかない。これは堂々と主張すべき正論であり、そのために交渉テーマをできるだけ絞ろうとする戦術も間違っていない。

     しかしその裏で、米国が不公正な貿易を改めるよう迫っている中国に不用意に接近していては話が別だ。仮に米国から自動車への高関税を突きつけられるようなことがあれば日本経済がダメージを受ける。そうなれば参院選の勝利もおぼつかなくなり、場合によっては敗北の責任を問われて首相退陣ということも考えられないわけではない。

     日本経済が勢いを失った平成が終わり、新たな時代に踏み出す画期の年である。時代が代わったのに政治はそのままなのかという飽きが国民感情を覆うことを政権としては恐れるのであろう。

     一方で、将来の世代にツケを回し続けるアベノミクスの限界も近づいている。今年10月に消費税率を10%に引き上げた後にはいよいよ人口減少時代に立ち向かう社会保障改革を断行しなければならない。東京五輪・パラリンピックによる景気刺激が期待できるのは来年までだ。

     安倍首相の自民党総裁任期は2021年9月まであるが、長いようで短い。優先課題を見誤れば、今夏の参院選で足をすくわれる危険すらある。まさにボーッとしてはいられない新年を迎えた。

    「危うさ」が募る日本経済の行方

     国民が最も気がかりな日本経済はどうなるのか。

     バブル期並みと言われるほど企業業績は好調で、人手不足倒産が過去最多のペースで進んでいるというように雇用情勢も大きく改善している。しかし、賃金の伸びは鈍く、安倍政権が唱えていた自律的な経済の好循環が実現したのかと言われると、まだまだというのが、日本経済の現況だろう。

    株式市場は揺らいでいる=世界同時株安の様相となった2018年10月11日の主要な株価指数を示す東京都中央区の街頭ボード

     今年10月に消費税率の10%への引き上げが控えている。その後に起こるであろう需要の反動減に備え、政府は、自動車や住宅などへの各種の減税に加え、キャッシュレス決済へのポイント付与、低所得者へのプレミアム商品券の配布など、バラマキと形容されても仕方がない施策を実行しようとしている。

     景気の回復が続いていることを安倍首相は繰り返し強調してきた。しかし、消費税対策として実施される財政の大盤振る舞いは、日本経済が抱え込んでいる「危うさ」について政権も認識し、それが投影された結果なのかもしれない。

     日本経済にまつわる「危うさ」については、歯止めがかからない財政赤字の拡大と、異次元の量的緩和からさらに進んだマイナス金利の導入による市場のゆがみがかねて指摘されてきた。

     アベノミクスが唱えた2%の物価上昇を実現し、デフレから脱却するというシナリオだったものの、2%の物価目標は、安倍政権にとって、もはや努力目標という状態だ。では、この先、財政と金融をめぐる「危うさ」にどう対処していくのだろう。

     「危うさ」の解決は容易ではない。そのため当面の課題は、「危うさ」を顕在化させないためのマネジメントに移っているようだ。「財政のファイナンス」や「株価操縦」との批判にもかかわらず、日銀は国債や株式を買い続けている。「危うさ」を顕在化させないためのとりあえずの方策が他になくなっているためで、それがさらなる「危うさ」のため込みにつながっているのではないかと、危惧されている。

     安倍1強体制のもとでの政権の安定性を背景に、「危うさ」は日銀によって封じ込められてきた格好だ。しかし、制御しやすい内生変数だけでは経済は成り立っているわけではない。

     これまでアベノミクスにとって親和的だった海外に起因する外生変数の動きが怪しくなっている。その動きは19年にさらに激しくなりそうだ。

     まずは、米国の利上げだ。米国の金融引き締めは、中南米の債務危機など、過去にも世界経済に波乱を引き起こしてきた。米国の金利引き上げによって、新興国に投じられてきた資金が米国に還流している。新興国は通貨安となり、防衛のため利上げを余儀なくされ、景気の悪化が進行している。

     米国の利上げに続く形で、欧州も金融引き締めに舵を切るのかもしれない。日米欧の先進国が、過去にないレベルで金融緩和を続け、余剰資金による不動産価格の世界的な高騰を招いているが、それも転機を迎えることになるのかもしれない。

     世界的に景気が冷え込む中で、米国が利上げを続けているのは、経済が堅調に推移しているからだ。しかし、17年末には、景気の転換点とされる長期金利が短期金利の水準を下回るという逆転現象が生じている。米国経済の失速という事態もあるのかもしれない。

     米国の金利動向は、日本にとっても気がかりだ。世界的に金利水準が上がって景気が落ち込めば、日本の輸出にはマイナスに働く。新興国で再び、通貨危機が発生すると、安全資産と見なされている円に逃避資金が流れ込み、円高が進み、株価の下落を招きかねない。

     一方、米国が利上げを停止した場合、日米の金利差はこれ以上、広がらないとして、市場では円が買い進まれ、円高・株安が心配される。

    懸念強まる米中経済“新冷戦”の影響

     米国と中国の経済摩擦の行方も不安要素だ。米政府は、1月に予定していた中国製品に対する追加関税率を10%から25%へ引き上げる措置を90日間延期し、交渉を継続することにした。しかし、米政府の要請をもとにカナダ当局が、中国の通信機器大手、ファーウェイの副会長を逮捕したことにより、米中間の溝は深刻の度をさらに高めている。米国の対中圧力は、新冷戦と呼ばれているように、覇権をめぐる争いとして長期にわたって続きそうだ。

     日本や欧米の企業が、対中投資を絞ることになれば、中国経済は貿易、投資の両面から打撃を受けることになる。中国経済が失速することになれば、日本への影響も避けられない。

     さらに1月からは日米間で新たな経済協議が始まる。TAGと日本側が勝手に名付けているものの、実態は日米自由貿易協定(FTA)の締結交渉だ。自動車への追加関税を材料に、日本側から譲歩を引き出そうというのが米国の狙いだ。自動車や牛肉の取り扱いという貿易問題にとどまらず、円安誘導を封じ込めるための為替条項の行方も注目されている。

     超金融緩和による円安への誘導が、企業業績を回復させ、株高につながり、これが日本経済を支えてきた。それは、金融緩和を背景にした堅調な米国経済と、減速したとはいえ先進国に比べ高い中国の経済成長がベースになってのことだった。

     しかし、1年ほど前にゴルディロックスと呼ばれていた金融市場にとって居心地のいい状況は、様変わりしている。

     押し寄せる荒波を回避しつつ、日銀の対応策に限界が見えている中で、日本経済が抱える「危うさ」をマネジメントするための新たな方策を示すことができるのか。経済第一を掲げる安倍政権にとって、今年はその真価が問われる年になりそうだ。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 海外高級住宅購入、ヨットクラブ会費・・・ゴーン前会長の私的流用が次々判明 日産内部調査で
    2. 北海道に白いヒグマ 日大演習林で動画撮影成功
    3. 携帯の2年縛り、3月から緩和 違約金なしの解約、3カ月に
    4. 米で偽新聞「トランプ辞任」ワシントンでばらまき
    5. 過激ゆるキャラ「ちぃたん☆」に頭抱える高知・須崎市 「観光大使」自称

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです