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オーケストラのススメ

~28~ 2019年にアニヴァーサリーを迎える作曲家たち

山田治生

【没後150年を迎えるベルリオーズ】

     クラシック音楽界、2019年のアニヴァーサリーといえば、まず、エクトル・ベルリオーズ(1803~1869年)の没後150周年があげられよう。ベルリオーズは突然変異の天才であった。ベートーヴェンの交響曲第2番が初演された1803年、リヨン郊外の医師の家庭に生まれた。父親の希望に沿って、医師になるためにパリに出て医科大学に進んだが、作曲への情熱を抑えきれず、22歳でパリ音楽院に入学。彼の出世作であり代表作である「幻想交響曲」が初演されたのは、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」の初演からわずか6年後、ベートーヴェンの死から3年後の1830年であった。

     「幻想交響曲」は、交響曲という形式に個人のエピソードを持ち込んだ画期的な作品。恋人を表す固定楽想の使用がワーグナーのライトモチーフを先取りし、独自のオーケストレーションが近代的な管弦楽法への道を切り開いた。正規の音楽教育を受けず、ピアノさえ弾けなかったといわれているが、そんな欠点がかえって既成概念(ピアノ的発想)にとらわれない彼独自の管弦楽法を生み出した。

     晩年のベルリオーズは、1862年に2番目の妻であるマリーに先立たれ、1867年には一人息子のルイを亡くすなどの不幸が続き、孤独を味わった。時代を超越した前衛的な作曲家は、1869年3月8日に、パリで65年の生涯を閉じた。彼は弟子も取り巻きも持たない孤高の存在であった。

    5月に「幻想交響曲」を取り上げるデュトワと大阪フィル

     「幻想交響曲」は、アニヴァーサリーに関係なく演奏される名曲中の名曲であるが、やはり2019年は、どのオーケストラも競うかのように取り上げる。4月に東京都交響楽団が音楽監督・大野和士と演奏するのを皮切りに、5月に札幌交響楽団が首席指揮者・バーメルトと、6月に神奈川フィルが特別客演指揮者・小泉和裕と、11月には名古屋フィルが音楽監督・小泉和裕と奏でる。客演では、5月にシャルル・デュトワが大阪フィルと、11月にシルヴァン・カンブルランが広島交響楽団と、「幻想交響曲」を取り上げるのが注目される。フランス音楽の権威というべき、2人の巨匠がこれらのオーケストラとどんな演奏を繰り広げるのか興味津々である。

     ヴィオラ独奏を伴う交響曲「イタリアのハロルド」も近年、しばしば演奏されるようになった。1月にはトゥガン・ソヒエフ&NHK交響楽団が同響首席の佐々木亮とともに、10月には広上淳一&九州交響楽団が同響桂冠コンサートマスターであり、ヴィオラにも精通する豊嶋泰嗣とともに、取り上げる。

    10月に九響定期で「イタリアのハロルド」に取り組む広上(左)と豊嶋 (C)Greg Sailor/(C)大窪道治

     珍しいところでは、「クレオパトラの死」があげられる。若きベルリオーズがローマ賞に応募した作品(しかし落選。斬新過ぎたのであろう)。オクタヴィアヌスの捕虜となったクレオパトラが毒蛇に身をかませて自殺を図るシーンを描いたカンタータであるが、ここでもベルリオーズのユニークな管弦楽法を聴くことができる。4月、ソプラノのヴェロニク・ジャンヌが招かれ、ヤクブ・フルシャがN響と初協演するその演奏は話題となるであろう。

    N響はフルシャ(右)、ヴェロニク・ジャンス=(C)Sandrine Expilly=とともに「クレオパトラの死」を披露

    【生誕200年~オペレッタを代表するスッペとオッフェンバック】

     2019年は、フランツ・スッペ(1819~1895年)とジャック・オッフェンバック(1819~1880年)の2人の生誕200周年にもあたる。ウィーンとパリ、オペレッタを代表する2人の作曲家が同じ年に生まれたことは、バロック音楽のバッハとヘンデル(1685年)、あるいはオペラ界のヴェルディとワーグナー(1813年)に匹敵する偶然の一致と言えなくもない。

     ウィーンのオペレッタの礎を築いたスッペは、今では「軽騎兵」序曲ばかりが有名であるが、昔は、浅草オペラで「ボッカッチョ」の〝恋はやさしい野辺の花よ〟がヒットするなど、彼のオペレッタが多くの人々に親しまれていた。

     一方、オッフェンバックは、1855年にパリにブッフ・パリジャン座をオープンさせ、その劇場のために書いた音楽劇はパリ中の話題となった。その後、「天国と地獄(地獄のオルフェ)」などのオペレッタがヒット。晩年にはオペラ「ホフマン物語」も書いた。

     下野竜也が東京シティ・フィルの2月の定期演奏会で、この2人の作曲家の作品を集めたプログラムを披露する。オッフェンバックの「天国と地獄」序曲のほか、スッペの「怪盗団」「美しいガラテア」「軽騎兵」などのオペレッタの序曲、序曲「ウィーンの朝、昼、晩」などを取り上げる。ウィーン留学経験のある下野は、自ら音楽総監督を務める広島交響楽団で新ディスカバリー・シリーズ「黄昏の維納」を立ち上げ、2017年から2018年にかけて、スッペの七つの序曲(「ウィーンの朝、昼、晩」「怪盗団」「美しいガラテア」「スペードの女王」「詩人と農夫」「ボッカッチョ」「軽騎兵」)を手掛けてきたのであった。

     また、10月には、フィリップ・フォン・シュタイネッカーが東京都交響楽団の定期演奏会で2人の作品を取り上げる。スッペは「軽騎兵」と「美しきガラテア」の序曲、オッフェンバックでは、「ホフマン物語」から〝舟歌〟ほかと「天国と地獄」序曲、そしてチェロ協奏曲「軍隊風」(日本初演)も披露する。オッフェンバックはキャリアの始めはチェリストであった。シュタイネッカーもチェロ出身で、古楽でも活躍している。

    2月定期でオッフェンバックやスッペの作品を取り上げる東京シティ・フィルと下野 (C)金子力

    【ポーランド国民オペラの父・モニューシュコも生誕200年】

     そしてもう一人紹介したいのが、スタニスワフ・モニューシュコ(1819~72)。「ポーランドの国民音楽の祖」とも「ポーランド国民オペラの父」ともいわれる彼も生誕200周年である。ベルリンで学んだ彼は、「ハルカ」「伯爵夫人」「幽霊屋敷」などのオペラを残す(日本でも1980年ごろに長門美保歌劇団が「幽霊屋敷」と「伯爵夫人」を日本語で上演している)。2月に、今村能指揮フィルハルモニア多摩&東京室内歌劇場が演奏会形式で、「幽霊屋敷」のポーランド語での日本初演を行う。下野&広響は、8月のワルシャワでのシンフォニア・ヴァルソヴィアとの合同演奏でモニューシュコの序曲「バイカ」を演奏する。

    【ベートーヴェン生誕250年をさきどり】

     早くも来年のことであるが、音楽界は2020年のベートーヴェン生誕250周年に向かって動き出している。下野&広響は、5月、ディスカバリー・シリーズで、ベートーヴェン交響曲全曲演奏をスタートさせる。交響曲を第1番から、1作ずつ取り上げ、細川俊夫の協奏曲的作品と組み合わせるプログラムを披露。そして、2020年に全交響曲を完奏する。8、9月のパーヴォ・ヤルヴィ&N響の「フィデリオ」(演奏会形式)もベートーヴェン・イヤーに先駆ける企画である。ベートーヴェンに関しては、これから、さまざまな企画や演奏会が発表されていくだろう。

    筆者プロフィル

     山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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