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検証・災害列島

/2 豪雨避難、5段階警戒 情報で人は動かぬ

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 住民が逃げない--。防災に取り組む国や地方自治体は難題に頭を抱える。住民のため避難を呼びかけても、従ってくれないのだ。昨年の西日本豪雨でも救えたはずの命が多く失われ、死者・行方不明者は関連死を含め247人に上った。

 毎日新聞は先月、西日本豪雨で被害が大きかった岡山、広島、愛媛の全70市町村に、住民避難の課題をアンケート形式で尋ねた。「避難情報を発令しても、避難に十分に結びつかない」「『自分だけは大丈夫』『今まで何もなかったから』という意識が根強い」「行政任せになっている」。担当者の苦悩が垣間見えた。

 政府によると、西日本豪雨で23府県の863万人に避難勧告や避難指示が出されたが、実際には約0・5%しか避難所に避難していない。広島市の住民調査では、避難しなかった理由を「被害に遭うとは思わなかった」と答えた人が最多の53・3%に達した。

 国の中央防災会議の作業部会は豪雨災害を受け、防災気象情報を5段階の警戒レベルで示す提案をした。災害時のさまざまな情報の切迫感を分かりやすく伝える狙いだ。だが、2017年に「避難指示」を「避難指示(緊急)」とするなどこれまでも表現を改めている。5段階の警戒レベルが住民に浸透し、避難行動に結びつくか、効果は未知数だ。

 避難情報が有効に機能しない状況に対し、人の心理や行動を研究する専門家は「人間を分かっていない」と指摘し、人間の特性を考慮するよう求める。

 及川康・東洋大准教授(災害社会工学)は「避難勧告のあり方を根本的に見直してはどうか」と提案する。自治体の指示に頼っていると「勧告がないから避難しない」という誤った判断を招く。「『水位が基準値を超えた』『避難所を開設した』など、避難勧告の基準としている情報を、事実としてそのまま知らせる方が有効だ」と指摘する。

 一方、「人は情報では逃げない」と元吉忠寛・関西大教授(災害心理学)は語る。人は危険な現場を目の当たりにすると感情に突き動かされ、行動に移す。しかし、言葉で受け取った防災情報は、頭で論理的に理解しようとする。その結果、「大したことはない」と過小評価して平静を保とうとする「正常性バイアス」の餌食となる。

 元吉教授は「正常性バイアスは人間の本能で、克服は難しい。情報に接しやすくなったり、情報の精度が上がったりしても、避難行動のきっかけにはならない」と話す。

 大阪大の大竹文雄教授(行動経済学)は「人間は正しい情報を得ても、合理的な判断をしない場合がある」と指摘する。着目するのは、行動経済学で「ナッジ」と呼ばれる考え方だ。「多くの人は避難しています」「避難所に行けば食料や水が確保できます」などとメッセージの伝え方を工夫し、避難という正しい選択を後押しする。

 ナッジとは、人の行動を良い方向にさりげなく導く工夫のこと。大竹教授は「どんなナッジが効くのかは地域や人によって違うかもしれない。住民の意識や過去のデータを検証する必要がある」と話す。

 災害が頻発し、日本の防災体制が大きな転換を迫られている。中央防災会議の作業部会は先月まとめた報告書で「行政の限界」「自らの命は自らが守る」などと明記し、行政主体だった日本の災害対策の見直しを迫った。防災情報の発信方法も、従来の考え方を大きく変える必要がある。【松本光樹】=つづく

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