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若島正・評 『紫の雲』=M・P・シール著、南條竹則・訳

 (アトリエサード・2592円)

誇大妄想狂的な側面が臆面なく露出

 わたしたちがSFと呼んでいるジャンルは、一九二〇年代に、アメリカのパルプ雑誌から誕生した。そうした初期のSFは、科学が切り開く明るい未来を信奉する、いかにもアメリカらしい楽天的な世界観によって裏打ちされていた。それに対して、一八九五年に『タイム・マシン』を発表したH・G・ウェルズをはじめとして、イギリスの科学小説家たちはまったく独自の道を行き、大衆小説色の強いアメリカ産のSFがあたかも存在しないかのようにふるまった。独特の海洋綺談(きだん)を得意としたウィリアム・ホープ・ホジスン、ウェルズの後を継ぎ、壮大なヴィジョンの人類史を描いたオラフ・ステープルドンといった作家たちを挙げることができる。今回、帯に「幻想文学の金字塔」と謳(うた)われた代表作『紫の雲』(一九〇一年)がようやく翻訳された、M・P・シールもそうしたイギリス科学小説家の一人である。

 しかし、M・P・シールの厄介なところは、そうやってひとくくりにできない突出ぶりにある。「金字塔」とはよく言ったものだ。『紫の雲』は喩(たと)えてみれば古代のピラミッドのようなものであり、さらに正確を期せば、巨石が立ち並ぶストーンヘンジの遺跡のように、これを作ったのは地球に飛来した宇宙人かと思わせる奇観を呈している。

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