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荒川洋治・評 『チャンドス卿の手紙/アンドレアス』=ホーフマンスタール著、丘沢静也・訳

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 (光文社古典新訳文庫・950円)

立ち止まり、視点を切りかえる

 著名な文人が、文学活動を完全にやめることを報告する。それが「チャンドス卿(きょう)の手紙」だ。四〇〇字詰原稿用紙で三〇枚ほどのこの散文は、文章を書く人の大多数に直接かかわる問題を早々と提起した。

 本書はオーストリアの文豪、フーゴー・フォン・ホーフマンスタール(一八七四-一九二九)の代表作五編の新訳だ。表題作「チャンドス卿の手紙」(原題「手紙」)の翻訳は『ホーフマンスタール選集』第三巻(河出書房新社・一九七二)の富士川英郎訳、岩波文庫『チャンドス卿の手紙 他十篇』(一九九一)の檜山哲彦訳、同『ホフマンスタール詩集』(二〇〇九)所収の川村二郎訳などにつづくものだ。

 ホーフマンスタール(ホフマンスタールとも記す)はオーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンの生まれ。一五歳でホメロス、ダンテなどを原語で読みこなす。一六歳から詩作、一九歳で詩劇「痴人と死」(森鴎外が翻訳)。早熟の文才を嘔(うた)われ、文壇の寵児(ちょうじ)に。本書収録の小説「第六七二夜のメールヘン」「騎兵物語」など三編は二〇代。詩、韻文劇、小説に大きな才能を示したが、一九〇二年、二八歳のとき「チ…

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