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アフリカノート

ジンバブエで起きている苛烈な弾圧

警察に逮捕され、裁判所に連行された抗議行動の参加者ら=ハラレ市内で1月16日、AP

 アフリカ南部のジンバブエで、燃料費高騰への抗議に対する苛烈な弾圧が続いている。人権団体は「治安当局の対応はムガベ時代と何ら変わっていない」と批判する。2017年11月のムガベ前大統領の退陣によって、民主化と経済再生への期待が高まったはずの同国で何が起きているのか。

 きっかけは燃料費の高騰だった。ムナンガグワ大統領は1月12日、ガソリン価格を1リットル当たり1・24ドル(約136円)から150%超引き上げて3・31ドル(約363円)にすると発表。一夜にして「世界一ガソリンが高い国」になった。https://www.globalpetrolprices.com/gasoline_prices/World-top10/

 これに対し、労働組合や市民団体は14日から3日間のゼネストを呼びかけた。首都ハラレや第2の都市ブラワヨなどでは多くの市民が呼応し、大半の商店や学校が閉鎖された。主催者は自宅にとどまるよう促したが、自然発生的な抗議デモのさなかに一部の若者が暴徒化して略奪も起きたという。

情報統制で被害の全容わからず

病院に運ばれた男性。制服姿の兵士の集団に暴行されたという=ハラレ市内で1月17日、AP

 治安当局はインターネットを遮断し、労組や野党関係者らに対する激しい弾圧を開始。被害者の治療に当たった「ジンバブエ人権のための医師の会」などによると、少なくとも12人が死亡し、300人以上が負傷、78人が銃撃を受けて病院に運ばれた。このうち半数近くは抗議行動とは無関係で、帰宅途中などに流れ弾に当たって重傷を負ったという。 

 「中には1~2メートルの至近距離から頭部を撃たれた犠牲者もいて、殺意があったのは明らか」(同会のノーマン・マトラ医師)。ハラレ市内の低所得者居住区などの状況について、マトラ医師は「兵士や警察官がしらみつぶしに民家を捜索し、住民を引きずり出して暴行している」と語る。摘発を恐れて隣国南アフリカに逃れたマトラ医師が記者に示した写真には、ムチや棒で殴打されて背中がどす黒く腫れ上がったり、割れたボトルを足に突き刺されたという被害者の姿が写っていた。

 情報統制によって被害の全容は明らかになっておらず、死傷者は今後さらに増えるとみられる。治安当局はムガベ前大統領が劣勢だった08年の大統領選後、野党支持者を激しく弾圧し、野党候補を決選投票からの撤退に追い込んだ。シンクタンク「国際危機グループ」のピアース・ピグー氏は「治安当局の暴力のすさまじさは08年の野党弾圧に匹敵する」と指摘している。

兵士や警官が市民を公然と暴行

 当局の弾圧は計画的に行われた疑いが浮上している。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のデワ・マビンガ氏は「各地で同じ時間帯に、同種の凶器で暴行を受けた」と指摘。拘束された人は700人近くに上り、弁護士が駆け付ける前に即決裁判で次々と有罪判決が下っている。重傷を負った被害者が病院から強制的に裁判所へと連行されたケースもあるという。

頭部に銃撃を受けて死亡した男性の葬儀で涙を流す遺族ら=ハラレ郊外で1月19日、AP

 独裁的と批判されたムガベ前政権下でもこうした弾圧が起きたが、マビンガ氏は「ムガベ時代は少なくとも人目につかないようにしていた。だが、今回は白昼に制服姿の兵士が行っており、公然と法律を無視している」と述べた。

 ジンバブエでは08年に年率2億%を超えるハイパーインフレを記録した後、無価値となった自国通貨ジンバブエドルを廃止。代わりに米ドルや南アフリカランドを採用したが、その後も物資の輸入に必要な外貨の不足に歯止めがかからず、政府も手に負えなくなっているという。昨年12月のインフレ率は過去10年間で最も高い42%に達した。

 ムガベ氏の後任となったムナンガグワ大統領は、民主化や経済再生、国際社会との関係再構築などを公約した。外資誘致のため盛んに外遊を重ねているが、ムガベ時代をほうふつとさせる当局の対応は西側諸国との関係改善に向けた努力を台無しにするものだ。ピグー氏は「自滅行為としか言いようがない」と語る。ムナンガグワ氏は混乱を受けて外遊先から緊急帰国したが、1月22日からスイス・ダボスで開かれた「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)」に予定通り出席していたら、欧米メディアなどから厳しい追及を受けていたはずだ。

 では、治安当局がなぜ強硬措置に踏み切ったのか。専門家の見方は諸説ある。一つは英語で「良い警官、悪い警官」と呼ばれる手法だ。「悪い警官」を演じるチウェンガ副大統領(前国軍司令官)が治安当局に抗議行動の封じ込めを命じる一方で、外遊先から帰国した「良い警官」役のムナンガグワ氏が当局の対応を批判すれば「改革者」としてのイメージを損なわずに済むというものだ。

 ただ、ピグー氏はこの説に懐疑的だ。同氏によれば、正副大統領の主導権争いに加えて、与党内には六~七つの派閥があり、不可解に見える治安当局の対応には「与党や治安当局の内部対立が影響した可能性がある」という。ジンバブエ政府は南アなどに緊急融資を求めているが、経済危機や政情不安の長期化は避けられそうにない。歴史的なムガベ氏の退陣から1年あまりで新時代への期待はしぼみ、再び国中に悲観論が広がっている。【小泉大士】

小泉大士

ヨハネスブルク特派員。インドネシアの邦字紙で7年間勤めた後、2006年入社。さいたま支局、社会部を経て、2016年4月から現職。

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