正常化の道に踏み出すこともできず、一段の緩和強化もできない。間もなく6年になろうという日銀の異次元緩和策が隘路(あいろ)にはまっている。
日銀は先週、3カ月に1度の物価上昇見通しを発表し、2019年度の予測を0・9%に下方修正した。昨年10月時点での見通しより0・5ポイントも低い。
同年の4月時点では1・8%だった。見直しのたびに下方修正を重ねている格好だ。
今回の大幅引き下げについて日銀は、原油価格の急落をその主な理由に挙げ、一時的な現象だと説明している。しかし、20年度の予測も1・4%と、目標の2%からまた遠のいた。しかも、大半の政策委員会メンバーがさらに下振れするリスクを認めている。
物価の見通しを連続で下方修正したり、大幅に引き下げたりした場合、中央銀行は通常、金融緩和で物価の下支えを試みる。しかし日銀は動こうとしない。
一方で、異次元緩和の正常化もタイミングを逃した感がある。
物価上昇率は2%を大きく下回るものの、物価が下がり続けるデフレではない。それどころか政府は、現在の景気拡大が「戦後最長」になったとの判断を近く、示す模様だ。
もっと早く金融政策を危機対応型から平常型に戻す作業を始めておくべきだった。しかし、劇薬である異次元緩和からの転換には、一時的にせよ市場の動揺が伴う。このため、正常化の準備に入ることさえできず、今に至っている。
問題は、これまで経済成長の頼みだった海外の好景気が、米中貿易摩擦の影響や中国経済の減速などに伴い曲がり角に来ていることだ。金融政策を正常化するハードルは一層高まりそうである。
かといって緩和政策を持続したり強化したりすれば、副作用の深刻化を招く。マイナス金利の導入決定から3年がたつが、金融機関の収益や年金などの運用に与える負の影響は一段と重くなりそうだ。
「2%の物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)は維持されている」。黒田東彦総裁はそう繰り返すが、度重なる物価見通しの引き下げで、説得力を欠く。日銀は信用が失われている現状を直視すべきだ。