通常国会がきのう始まり、安倍晋三首相が衆参両院本会議で施政方針演説を行った。
4月いっぱいで平成は幕を閉じ、新天皇が誕生する。この国会は平成と、次の新しい時代をつなぐ論戦の場となる。果たしてそれにふさわしい演説だっただろうか。残念ながら不十分だと言わざるを得ない。
演説の前半、首相はいつものように「この6年間、経済は10%以上成長した」「国・地方合わせた税収は28兆円増加した」等々と具体的な数字を挙げ、繰り返しアベノミクスの成果を自画自賛してみせた。
しかし、まず忘れてならないのは、厚生労働省による毎月勤労統計の不正が発覚し、首相が胸を張ってきた数字自体の信ぴょう性が揺らいでいることだ。
不正統計に関し、首相は演説で「セーフティーネットへの信頼を損なうもの」と陳謝した。だが問題は雇用保険などセーフティーネット(社会の安全網)の話にとどまらない。
政策の土台となる統計がずさんに扱われてきたのは、財務省の文書改ざんと同様、行政、そして政治全体の信頼を大きく損なうものではないのか。首相がこの事態をどこまで深刻に受け止めているのか、疑問だ。
今回、憲法改正をはじめ「安倍色」を薄め、国民生活に密接な経済や社会保障に多くの時間を割いたのは、春の統一地方選や夏の参院選を意識したからだろう。ただし、総じて「これまでうまく進んできた。だから今後も同じ路線を続ける」と力説する内容だったと言っていい。
人口減少にどう対応するのか。全世代型社会保障をどう実現するのか。結局、新時代に向けた長期ビジョンは具体的に提示されなかった。
今後の衆参両院選挙で仮に自民党が勝ち続けても、安倍首相の自民党総裁任期は2021年秋までと区切られている。
このため首相は特に外交方針に関して「いよいよ総仕上げの時」と語った。ところが、その外交でも日露の北方領土交渉や、北朝鮮の拉致問題など手詰まり感が漂い始めているのが現状だ。
内政・外交ともに、6年余にわたる政権運営を負の側面も含めて首相が謙虚に検証することなく、総仕上げができるはずがない。