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第94回センバツ高校野球

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米東・春への軌跡 第1部/4止 やるべきことを明確に 目標可視化で意識改革 /鳥取

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ミーティングで選手の意識を高めようとする米子東の紙本庸由監督(左)=鳥取県米子市勝田町の同校で、園部仁史撮影 拡大
ミーティングで選手の意識を高めようとする米子東の紙本庸由監督(左)=鳥取県米子市勝田町の同校で、園部仁史撮影

 <第91回選抜高校野球大会 センバツ>

 「イルカと人間が泳いだら、どっちが速い?」

 センバツ出場決定から一夜明けた26日、練習後のミーティングで米子東の紙本庸由(のぶゆき)監督が選手らに問い掛けた。「体が大きいから」「水での泳ぎに慣れている」と全員がイルカと答えたが、紙本監督は「俺はその答えでは納得できないよ」。理由を繰り返し尋ね、みんなは言葉に詰まりつつも自分の言葉で考えを導こうとしていた。

 あるメンタルトレーナーが北京五輪(2008年)前、日本代表の水泳選手たちに尋ねた同じ質問だ。紙本監督は続けた。「唯一(金メダリストの)北島康介選手が『人間が勝つ』と答えた。負ける明確な理由がないのだから、あらゆる手を尽くして勝ちを探すのだ」と。

 野球も同じだ。「同じ高校生相手に負ける明確な理由なんてあるのか? 知恵と工夫と努力を尽くせば絶対に勝てるんだ」。耳を傾けていたナインらは大きくうなずいた。こうした“問答”は以前から部内では慣例になっている。諸遊(もろゆ)壮一郎選手(2年)は中国地区大会に臨む際「甲子園常連校相手に勝てると心底思うことができた」と振り返った。

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 紙本監督は2013年、母校の監督に就任した。「長い間出ていないと『甲子園は出られないもの』と考える選手も多かった」と意識改革の必要性を感じた。オフでは野球以外の、経営者が書いた本を読み、講演会に足を運んだ。部室の壁には自身が選んだ、ヘレン・ケラーの名言や童話「ムーミン」に登場するスナフキンの名言などを記した紙30枚以上を貼った。

 昨年2月からは、元中学教師で教育者の原田隆史氏が考案した「原田メソッド」と呼ばれる指導技術も取り入れた。米大リーグの大谷翔平選手が高校時代に活用したことでも知られる。例えば「甲子園での勝利」と大きな目標を設定すると、達成に必要な課題を「目標設定シート」に20個以上書き込み「打席に立つ際、1分後に一塁にいる自分をイメージする」と解決策を導く。日々の練習から自ら考え取り組むべきことを可視化することで練習の質も高まった。

 米子東の元監督で野球解説者の杉本真吾さん(53)=米子市在住=は、今チームの躍進を「精神力の強さ」だと断じる。「今自分がやるべきことが明確だった。試合で逆転されたとしても、慌てるようなことは決してなかった」

 福島康太主将(2年)は「限りある時間の中で『やるべきこと』を探し、自分を信じて実践できた結果が出場につながった」。16人の若鮎(あゆ)たち。あこがれの聖地での躍動を信じ、更なる研さんを積んでいる。=第1部おわり(この連載は園部仁史が担当しました)

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