移転・九大、どうなる「宝」 博物館所蔵145万点 宙に浮く保管先
昨年秋に福岡市西区の伊都キャンパスへの移転が完了した九州大で、箱崎キャンパス(同市東区)内にある九大総合研究博物館が所蔵している約145万点に及ぶ標本や資料などの新たな保管先が見つかっていない。伊都キャンパス内の博物館新設計画が頓挫しているためで、散逸や劣化を懸念する学会や住民らが適正保全を求めている。
創立100年余りの歴史を誇る九大が所蔵する標本や資料は、動物▽昆虫▽植物▽化石▽鉱物▽古人骨――など約750万点。このうち各学部や大学院などが所有する600万点余りは移転に伴い伊都キャンパスの各研究院などに移された。しかし、博物館が所蔵する約145万点が行き場を失い、その大半は同館に残ったままだ。当初は伊都キャンパス内に新設される博物館に移す計画があったが費用面から進んでいない。
約145万点の中には学術的に貴重な物も多い。故高壮吉工学部教授が明治から昭和の初めに各地から集めた「高壮吉鉱物標本」は日本三大鉱物標本に挙げられるほど。日本人起源論の研究に使用された古人骨、日本有数の昆虫標本コレクションなどもある。中には文化財に指定された物もある。博物館がある旧工学部本館は専用施設ではないため、温湿度管理が難しく、かびや虫害による劣化も懸念される。同館の三島美佐子准教授は「標本や資料をきちんと収蔵しきれていないのは課題だ」と話す。
保管先を確保できない事態を巡っては、植物学や地質学など40の学会や協会が加盟する「自然史学会連合」が九大学長宛てに資料の保全と継承を求める要望書を提出している。地元の住民団体「箱崎探索収集研究会」(はこたんクラブ)も昨年12月、適正保存や活用策の検討を求める請願書を福岡市議会に提出した。はこたんクラブの花田典子さん(62)は「標本や資料は国民の税で購入した共有の財産」と訴え、署名活動も展開している。
九大統合移転推進部は「現時点で将来的な方向性について具体的に答えられないが、重要な資料を散逸させるようなことは考えていない」としている。近く記者会見で方針を説明する予定で、関係者が安心できる対応策が示されるか注目される。【山崎あずさ】