心愛さんを誰かが救うことはできなかったのか 千葉・女児虐待死 上
千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(10)が1月24日に自宅で死亡しているのが見つかり、翌25日に父勇一郎容疑者(41)が傷害容疑で逮捕された。勇一郎容疑者による虐待のリスクは度々問題となっていたが、児童相談所、市、学校の情報共有や対応は十分とは言えなかった。沖縄から千葉への転居、転居後の小学校転校によって何が見落とされたのか。関係者の証言をもとに検証する。【斎藤文太郎、町野幸、信田真由美、加藤昌平、橋本利昭、橋口正】
母親の実家、糸満市にあった「DV、どう喝」の相談
心愛さんが母親(31)の実家がある沖縄県糸満市で家族で暮らしていた2017年7月上旬、母方の親族が同市を直接訪ねてきた。相談内容は、勇一郎容疑者から母親へのDV、そして心愛さんへのどう喝だった。母親は次女を出産したばかりで入院中で、親族は「生まれた子を父親(勇一郎容疑者)に預けてもいいのでしょうか」と相談した。母親が出産で入院する前、心愛さんは親族のもとに預けられていた。だが、親族が相談に訪れた前日、下校時に親族と勇一郎容疑者が一緒に迎えに来たことからもめ事になり、学校が間に入って話し合った結果、勇一郎容疑者に引き取られていった。
市は相談があった翌日、心愛さんが通う小学校の教頭に連絡。体にあざなどがないか注意するよう要請した。7月14日には県中央児童相談所にも状況を伝えたが、児相からは「それだけの情報では判断できない。もし何かあったら連絡してください」と返された。児相は取材に「少ない情報で判断できないので市に支援態勢を整えてくださいと言った」と答える。
一方、児相はその1週間前の7月7日、勇一郎容疑者から「祖母が(心愛さんを)引き取って、なかなか返してくれない」と電話を受けている。児相は「親族間のことなので何ができるかわかりませんが、支援できることがあるか検討するので来てください」と返答。だが、勇一郎容疑者が来所することはなかった。
市は7月下旬、心愛さんと勇一郎容疑者が2人で暮らす自宅に保健師を訪問させようとした。だが2度、当日になって面会の予定をキャンセルされた。1回目は「娘の用事がある」、2回目は「千葉への帰省でごたごたしている」という理由だった。
親族は8月中旬にも心愛さんのことが心配と言って市を再訪している。だが、勇一郎容疑者は市に「千葉から戻ってきてから(面会を)やる」と話したまま勇一郎容疑者の実家がある千葉県野田市に心愛さんを連れて転居してしまった。8月28日には転出の届け出が確定している。
糸満市は野田市に一家の状況について知らせるため、文書を2回送ったほか、電話でも報告した。内容は「妻に対して夫が支配的で、精神的DVがある様子もうかがえる。妻は夫以外に頼れる身内がいないので生活の不安が高まる可能性がある。夫婦のパワーバランス、家族の関係性も懸念される。訪問での支援をお願いします」といった内容で、母親に行政の子育て支援サービスの利用や乳児健診を受けさせるよう要請している。
だが、親族から連絡があった心愛さんへの「どう喝」については引き継ぎがなかった。この点、糸満市の担当者は取材に「虐待の事実が確認できなかったので引き継がなかった」と説明する。
10月下旬、野田市の母子保健の担当者から糸満市に報告があった。「9月末の乳児健診に夫婦で来ました。産後ヘルパーをつけることになって、お母さんはニコニコしていましたよ」
11月上旬、心愛さんが小学校のアンケートに「父からいじめを受けている」と記入したことをきっかけに虐待が明らかになり、柏児相に一時保護された。だが、糸満市にはその連絡はなく12月、「虐待を確認できなかった」として一家の支援終了を決めた。