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晴レルデ

おもい-つくる/8 愛で乗り切れる

629ページの分厚い本について語るマリさん=大阪市中央区のアサヒ精版印刷で、川平愛撮影

 20年前、マリさん(アサヒ精版印刷社長、築山万里子さん)が名乗るようになったプリンティングディレクター。紙選びから製版、印刷、製本までの全工程を仕切る“印刷の監督”と言えばいいか。「表現のお手伝いができる。これやと思いました。自信持って言えるようになるまで、5年以上かかったけど……」

     マリさんはそう言うが、この頃、コピーライターの村上美香さん、イラストレーターの仲里カズヒロさんとチームを組んだ仕事は、怖いものなしだった。この3人を周囲は「大人になってからの幼なじみ」と評した。秀逸な表現だと思う。

     依頼主に企画を売り込むプレゼンテーションは「むっちゃ勝ってました。根拠のない自信があったから」とマリさんが言えば、「万里子は『愛で乗り切ろう』って言いながら、絶対あきらめない」と美香さん。根拠のない自信も、愛で乗り切るのも若さの特権。20代の勢いはとどまることを知らない。

     美香さんと絵師の東學さんが曲折あって、「株式会社一八八」の名のもと、ミナミの元スナックでデザインの仕事を仕切り直した2001年。一八八とアサヒ精版が組んで、「年に1回、自分たちのプレゼンテーションを6月29日にやろう」というアートイベント「629」を始めた。自分の等身大のポスターを作ったり、映像ごっこをしてみたり、絵師が組んでのライブペインティングあり……。

    629ページの本の中扉には、こんな文句が

     07年には、6月29日にちなんで629ページの電話帳のように分厚い本を作った。「ノンブル(ページ番号)つくるだけで大変」(マリさん)、「1カ月くらい腱鞘炎(けんしょうえん)になるぐらいずっと文章書いてた」(美香さん)とそれぞれが語っている本をパラパラとめくっていたら、マリさんの父敬志朗さんが、アサヒ精版から印刷機をなくした理由を語っていた。

     「僕はなんもでけん。なんもでけんから、出逢(であ)った人を大事にしようと思うてたんや。この業界で生き残っていくためには?と考えたとき、印刷工場も機械も手放すべきやと思った。機械があると、その機械を使わんとあかんやろ。もっと自分の身を軽くして、上手なデザイナー、上手な印刷工場と付き合いたいと思ったんや。人だけが財産やから」

     そして、こんなことも。

     「大量印刷するだけゆう仕事は、大手にまかせといたらええと思うんや。僕は信頼関係のなかで、コンセプトから一緒にものづくりがしたいから」

     父娘は同じことを思っていたんだ。マリさんはパパの遺伝子を受け継いだんかな。いち早くデザインの重要性に気付き、デザイナーが「図案家」、コピーライターが「文案家」と呼ばれていた時代から、クリエーターとの付き合いを何より大事にしたパパの。もっともパパは「呑(の)むのは僕の仕事でも遊びでもあるから」とうそぶいてて、そういうところは全然似てないけど……。

     「629」を始めた2年後の03年、マリさんと美香さんにでかい仕事か舞い込んできた。<文・松井宏員 デザイン・シマダタモツ>

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