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AV問題

元トップAV女優森下くるみさん 過去作品の販売停止申請の理由とは

過去の出演作品の販売・配信を停止した森下くるみさん=東京都中野区で、加藤隆寛撮影

 1998年に18歳でアダルトビデオ(AV)の女優としてデビューし、業界トップ級の人気を誇った文筆家の森下くるみさん(38)が昨年11月、AV人権倫理機構を通じて過去の出演作品の販売・配信などの停止を申し入れた。同機構はAV出演強要問題の表面化を受けて2017年に設立された第三者機関。出演者本人の意思で販売停止を申請できる制度は昨年2月に始まり、既に森下さんのケースを含め119件(昨年末現在)の停止措置が取られた。引退から10年がたつ森下さんは「作品の販売期間があまりにも長すぎる。活動して20年の節目ということもあり、権利を行使するに至った」と心境を語った。【写真映像報道センター・加藤隆寛】

 引退直前の07年に発表したエッセー「すべては『裸になる』から始まって」は映画化もされ、その後もエッセーや小説などを精力的に執筆してきた森下さん。プライベートでは15年に結婚し16年に長男を出産した。10年の間に大きく変貌した生活環境。それでも「レジェンドAV女優」としていまだに消費され続ける現状に違和感が募っていた。

 疑問が一気に膨らんだのは14年夏。コンビニで売られている成人誌の表紙に自分の名前が大きく掲載されているのを見た時だった。AVメーカーが版元の雑誌で、森下さんのデビュー作をノーカット収録したDVDが付録だった。「あれ? いまだに名前が使われているの?」。デビュー当時は契約書類が一切存在せず、すべてが口約束で決まっていく「おおらかな」時代だったのも事実で、再編集版やベスト版などとして作品が2次使用されることにもある程度慣れていた。しかし、20年近くを経てなお「清純」「幼さ」といった18歳の自分のイメージが量産され続ける現実に直面して複雑な感情にとらわれるとともに、改めて自身の「権利のなさ」を痛感した。

   ◇   ◇   ◇

 その後、結婚や出産などで時間の余裕がなくなったため具体的な行動は起こせずにいたが、近年、AV出演強要問題が表面化したことで業界の動向がまた気になり始めた。何人かの元女優が大手販売サイトから作品を取り下げたとの情報も耳に入ってきた。昨年秋、AV監督の二村ヒトシさんと仕事先で会った際に「区切りをつける意味でも、そろそろ過去作品を販売サイトから取り下げたい」と相談してみたところ、二村さんはAV人権倫理機構を通じた停止申請の方法を指南した上で「忘れられる権利というのはあってもいいんだよ」と背中を押してくれた。

 手続きに特段の困難はなく、出演作のリストを作って送り「停止を求める理由」について機構側とメールでやり取りすればよかった。それに先立ち、今はメーカーの幹部になっているかつてのマネジャーにも相談してみたところ「わかった。手続きしておくよ」と、拍子抜けするほどあっさり認めてもらえた。1カ月後には大手販売サイトやメーカーのサイト上から自分の作品が消えていた。

 元トップ女優の行動は、他の引退した女優や現役女優たちにも少なからぬ影響を及ぼす可能性がある。だが、「すべての作品が消えるわけじゃないんです。そもそも過去は消えないので、私の子どもが将来、出演作を見てしまう確率は高いけれど、その時になったらしっかり向き合うつもり」と森下さんはいたって冷静だ。

 停止申請の理由をいろいろと勘繰られることは覚悟していた。「撮影時に何か不本意なことがあったのでは?」「2次使用料がもらえないことへの不満がある?」――。こうした指摘はすべて誤解だと森下さんは断言する。停止申請はあくまでも一つの選択肢。あえて声高に勧めて回るつもりもない。「おのおのが自分で考えて、責任を持って対処すべきこと」。それでも、当たり前の権利が行使できる時代になったことは感慨深いといい、「申し出が受け入れられ正式に取り組んでもらえてよかった」と笑顔を見せた。

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 同機構によると、「作品販売等停止申請」の制度がスタートした昨年2月から同年末までに計158件の申請があり、うち119件(75.3%)は停止などの手続きが終了した。また29件は確認手続き中で6件は「停止見送り」、4件は無修正作品などのため「対応不能」と判断されている。

森下くるみさん

 1980年、秋田県生まれ。文筆家。2008年、小説現代2月号で短編小説「硫化水銀」を発表。他の主な著作に「すべては『裸になる』から始まって」(講談社文庫)、「らふ」(青志社)、「36 書く女×撮る男」(ポンプラボ)など。ポエジィとアートを連絡するシリーズ書籍「未明」に「食べびと。」を連載中。

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