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2019年は「広告市場バブル」だ!

 2019年は「バブル」で幕開けした。

     築地から移転して、初めて正月を迎えた豊洲市場の初セリ。青森・大間町産の278キロの本マグロが、史上最高値の3億3360万円(1キロ当たり120万円)で落札された。これまでの最高値1億5540万円の2倍を上回る価格。バブルもバブルも「超バブル」だ。

     この本マグロは1万5000貫分になったそうだが、単純計算すると1貫当たり約2万2000円。落札した「すしチェーン・すしざんまい」は、これを通常価格(大トロ398円、中トロ298円、赤身158円)で販売したから赤字も赤字、超赤字だ。

     もちろん、赤字覚悟のご祝儀価格は「宣伝」である。3億円の落札金額の経理上の勘定科目は「仕入れ原価」ではなく「広告宣伝費」になるのだろう。

     NHKをはじめテレビ各社が全国ネットで大きく報じたから、その広告効果は優に10億円を超す!という計算もある(初セリの模様はほとんどのワイドショーのトップニュースで扱われたので、ちまたでは「一獲千金の1本釣り漁師」になろう!と漁業組合員の娘と結婚する方法まで話題になった)。

     話題作りの“達人”も負けてはいない。月旅行や女優、剛力彩芽との交際で注目を浴びた「ZOZO」の前澤友作社長は1月5日、自身のツイッターで「日頃の感謝を込め、アカウントのフォローとリツイート(RT=拡散)を条件に、僕個人から100名様に100万円【総額1億円のお年玉】を現金でプレゼントします」と宣言した。

     これも、究極の宣伝作戦。締め切りの8日午前0時時点で約554万RT。これまでの世界記録とされる約355万RTを大幅に更新した。

    今までのSNS広告の常識を破ったツイート。メディアに大きく取り上げられ、数億円の宣伝効果があった、というのだが、めちゃくちゃバブルだ。

    本来の広告市場もバブル化している。

    17年度の売り上げは約6兆3000万円(18年度は多分、7兆円を超えるだろう)。ようやく、10年前のリーマンショック以前の水準に戻った。

    大型のCMが次々に登場する。例えば、一休さんの替え歌がやたら耳に残る「NTTのいっきゅうぱ!」。

     演歌の大御所・細川たかしがアニメ「一休さん」の替え歌を高らかに歌いながら、突然、一休さんの 「デカ顔」に変身する。インパクトがあり過ぎるから子どもたちは「怖い!」と言っているが……。これでもか!これでもか!「いっきゅうぱ!」が流される。

     カネに糸目をつけないCMの時代なのか?

     そんな中で、何かと話題になっているのが「ハズキルーペ」のCMである。皆さんも一度はご覧になっているだろう。

     CMの舞台は超高級クラブ(「黒革の手帳」というドラマで使った銀座の高級クラブのセットをそのまま使用したという説まである)。

     ママを務めるのが武井咲(このCMは出産のため休養していた武井の復帰作でもある)。 ママが「話題のハズキルーペをお店で売ります」と宣言。来店した小泉孝太郎がパソコンで目が疲れていると訴えると「ハズキルーペ、かけてみて」と勧める。

     小泉が「字が小さ過ぎて読めない!」と前作で話題の「渡辺謙の演技」をまねしてみせる。すると、今度は隣の席の舘ひろしがサングラスタイプの商品を渋みの声で紹介する。

    そして、椅子の上に商品を置き、ホステスさんが次々と座って「メード・イン・ジャパンの強度」をアピール。最後は武井が「ハズキルーペ、大好き」とウインクして締めくくる。

     その間60秒。渡辺謙のマネ、舘が「これ、咲の生まれた年だね」とワインの年号を指すシーン。上から座っても壊れないという「強度」の表現、菊川怜の決めゼリフ「ハズキルーペ、大好き」など、前作で話題となった「要素」をたっぷりと盛り込んでいる。

     というのも、前作の「ハズキルーペ」は昨年10月後期のCM好感度調査で全3110作品中の1位に輝いたのだ。

     この「ハズキルーペ」のCMには謎も多い。

     その(1) タレントの契約料である。週刊誌を使って、絶対に漏らさないはずの「高額のギャラ」をスポンサー側が暴露している(渡辺謙2億円、舘ひろし8000万円らしい)。「広告市場の約束」を破って「ギャラの格差」をネタにするのは、何故か?

     その(2) あえてNGに挑戦していること。若いホステスさんが「尻丸出し」で、商品の上に乗るシーン。以前なら、女性団体から抗議を受け、NGになるはずだが、それを逆手にとって、成功している。

    その(3) 提供するのが「お堅い番組」ばかり。ゴールデンタイムを避け、CMが流されるのは「サンデーステーション」「報道特集」といった硬派の番組を選んでいるように見える。その理由は?

     そして、最大の謎は「本当にハズキルーペは、この大量のCM攻勢で、もうけているのか?」である(CMが主張するほど医学的効果があるのか?という疑問もあるらしい。僕の知り合いは「買ってはみたが、まったく効果がなかった」と文句を言っているけど?)。

     いずれにしても「ハズキルーペ」のようなCM大攻勢が「広告市場の常識」を破っている。

     CMは多分「信仰」なのだろう。

     私たちは「全て」を知ることはできない。物理的にも心的にも「何が本当で、何がうそなのか?」を判断するのには限界がある。

     哲学者・清水幾太郎は「流言蜚語(ひご)」の中で「二つのものを区別するのは知識でなく、信仰だ」と書いている。

     「知識」には限界があるから、何かを「信仰」するしかない。「信仰」とは「信頼」である。「信頼」するメディアが発信する事実を人々は「真実!」と判断する。信頼するメディアが報じなければ、これは「流言」になる。

     その判断作業は……。「内容」が本当であるか?うそであるか?ではない。人々は情報を発信するメディアが信頼できるか?で判断する。これは「信仰」である。

     ことの善悪を判断するのが面倒臭い!と思う現代人は「信仰」派である。「ご念仏」のような「CMの言葉」を無批判で受け入れる日本。

    ちょっと不安だが……。今年は天皇退位、統一地方選、参院選、消費税アップ? そして、来年は東京五輪……。19年の広告市場は過熱するばかりだ。(毎日新聞客員編集委員)

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