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はやぶさ2

「着陸成功に自信」 難敵リュウグウ「攻略法」はどう編み出したのか

模型を使って探査機はやぶさ2の小惑星リュウグウへの着陸運用について説明する津田雄一・プロジェクトマネジャー(右)=東京都千代田区で2019年2月6日、永山悦子撮影

 探査機はやぶさ2が22日午前、小惑星リュウグウへの着陸、表面の物質の採取に挑むことが決まった。「リュウグウが牙をむいた」と表現されたほど、表面がデコボコで着陸の適地がない星だったが、プロジェクトチームの総力を挙げた解析と検討を経て「難敵」の攻略法が編み出された。津田雄一・プロジェクトマネジャーは6日に開かれた記者会見で、「エンジニアリングでは100%はありえないが、リュウグウの厳しさを技術的に克服しきることはできたと思う。私たちの想定の範囲内では成功すると考えている。間違いなく進めるために全力を尽くしたい」と自信を見せた。チームが難題を乗り越え、着陸の決断にいたった経緯をまとめた。【永山悦子】

プロジェクトチーム総力挙げた3カ月の検討

 はやぶさ2が着陸するには、ある程度の広さのある平らな場所が必要だ。表面の物質を採取する際、探査機の機体の下にある筒状の「サンプラーホーン」(長さ1メートル)を小惑星表面に押しつける。サンプラーホーンはバネ状になっており、表面に押しつけられたときに縮むため、高さ60センチを超える岩があると、機体の底面の装置が傷つく恐れがある。

探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウへ着陸するときのイメージ図=宇宙航空研究開発機構提供

 はやぶさ2にはもともと、100メートル四方程度の平らな場所があれば、そこへ探査機を誘導する能力は備わっていた。先代のはやぶさが探査した小惑星イトカワには、細かい砂に覆われた「ミューゼスの海」と呼ばれるかなり広い地域があり、はやぶさはそこへ着陸しており、それを参考にして設計された。

 ところが、そんな広い平らな場所はリュウグウのどこにもなかった。このため、チームは目を皿のようにして平らな場所を探し、昨年10月に実施した降下リハーサルでは、ようやく見つけた平らに見える場所の中心に向かって、着陸の目印となる球状のターゲットマーカーを投下した。

 しかし、ターゲットマーカーが落ちたのは、当初目指した場所から南東に外れた地点だった。そこからチームの解析が始まった。それまでの検討はいったんリセットし、「投下したターゲットマーカーの近くでベストな場所はどこか」という視点から、改めてはやぶさ2が撮影した画像を丹念に調べた。そして、もともと目指していたターゲットマーカーの北西側にある幅12メートル程度の地域と、東側の幅6メートル程度の地域の2カ所が候補に浮上した。広い方はターゲットマーカーから遠く、狭い方が近かった。「遠くても広い方か、狭くても近い方か」

岩に囲まれていても「狭くても近い方」を選択

 プロジェクトチームが約3カ月かけて出した結論は「狭くても近い方」だった。

 なぜ、ネコの額ほどしかなく大きな岩に囲まれた狭くて近い方への着陸を決断したのか。

 今回の着陸では、既に投下したターゲットマーカーを目印に使うことになった。追加でターゲットマーカーを落とすこともできるが、「落としても岩の陰に隠れてしまうかもしれない」「狙い通りの場所に落ちるか分からない」「既に投下したターゲットマーカーの近くに落ちて、探査機が混乱するかもしれない」などの心配があり、追加投下はやめた。

探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウで最初の着陸を目指す地点(赤い点)=宇宙航空研究開発機構、東京大など提供

 そうすると、探査機は途中まで既に投下したターゲットマーカーをカメラの中心にとらえて降下し、最終的にはターゲットマーカーの位置を基準に、そこから離れた着陸地点へ移動していく「ピンポイントタッチダウン方式」という着陸技術を求められることになった。ターゲットマーカーを狙って降下すればよい着陸方法に比べて探査機の誘導がかなり難しく、「いきなり応用問題から始まることになった」と、プロジェクトチームメンバーは話す。

 ピンポイントタッチダウンでは、ターゲットマーカーから離れるほど着陸地点へ探査機を誘導する精度は落ちる。もしターゲットマーカーに近い領域が広ければ、すぐに着陸地点は決まったことだろう。プロジェクトチームからも「ターゲットマーカーの位置がもう少し北西側だったら」という声ももれた。しかし、残念ながらターゲットマーカーに近い方は、はやぶさ2の機体の幅(太陽電池パネルを広げた状態で幅6メートル)ほどの広さしかなかった。

撮影した画像をもとに詳細な三次元地図を作製

 プロジェクトチームは、まず、はやぶさ2の撮影した画像をもとに、二つの地域の詳細な三次元地図を作製した。着陸の際の精度について事前に検証するには、岩一つ一つの高さだけではなく、形の情報も必要になる。地図作りに当たった科学者たちのチームは、着陸のための地図と分かっていたためか、自信が持てない岩は大きめにしていた。一方、着陸の計画を立てるチームが「本当ですか。そこまで余裕を見なくてもいいのでは」などと疑問を投げかけ、両者が議論を重ね、何度も検討を繰り返した末に実際のリュウグウの表面に近い三次元地図に仕上げていった。その結果、平らな領域をより正確に把握できるようになったという。

 さらに、探査機をより精密に目的の場所へ誘導するため、姿勢を変えるエンジンやソフトウエアなどの性能を機器一つずつ極めて詳細に解析し、微調整を可能にした。リュウグウから探査機が受ける重力も、小惑星の地点ごとに解析し直し、重力によって曲げられるわずかな探査機の軌道の変化も考慮できるようになった。着陸できる領域が、いずれも極めて狭いため、探査機の重心についてもカメラの位置、サンプラーホーンの位置などに応じて計算した。「広い平らな場所があれば、全く気にもしなかったような細かい数字を一つ一つ詰めることになった。総力を挙げて着陸精度を上げた」(津田さん)という。

探査機はやぶさ2が観測したデータに基づいて作られた小惑星リュウグウの地形の図。青い部分が平らと見られる領域。赤い線で囲まれた地域と緑色の線で囲まれた地域を比べた結果、緑色のより狭い地域への着陸が決まった。ピンク色の線で囲まれているのが高さ60センチ以上の大きな岩=宇宙航空研究開発機構、東京大など提供

 当初の「100メートル四方への着陸精度」では、プラスマイナス50メートルの誤差まで許容できる。しかし、幅12メートルの場合は6メートル、幅6メートルでは3メートルまでしか誤差を許容できない。それ以上ずれてしまうと岩にぶつかってしまうか、探査機が危険を察知して緊急上昇してしまう。いずれも着陸は不成功となる。精度を上げる努力を重ねた結果、はやぶさ2の着陸精度は、「狭くても近い方」であればプラスマイナス2・7メートルまで確保できることが明らかになった。6割程度の確率でプラスマイナス1メートルまで探査機を誘導できることも分かった。一方、「遠くても広い方」は「狭くても近い方」よりも表面の凹凸が多いうえ、プラスマイナス6メートルまでの着陸精度を出すことが難しかったため、異論なく「狭くても近い方」が選ばれることになった。

 従来許容された50メートルの誤差と3メートルの誤差の違いについて、津田さんは「以前は校庭のグラウンドのトラックの内側くらいの広さに降りれば良かったが、今回は4畳半の部屋に降りなければならなくなった。技術的なレベルの差は非常に大きい」と話す。

 一方、着陸する地域が非常に狭いため、探査機が想定と違う、もしくは危険と判断して緊急上昇する際の条件を厳しく設定したという。安全に着陸するため、着陸時に探査機の機体後方が表面に「尻もち」をつかないよう、着陸時の姿勢をやや前のめりにすることも決めた。津田さんは「着陸成功を目指すが、緊急上昇ができれば再度挑戦することもできるので、『何か問題があったらすぐに帰ってきなさい』と教え込んでいる」と説明した。

 1回目の着陸のスケジュールは、2月21日午前8時ごろ、はやぶさ2は高度約20キロから降下を開始し、高度5キロまでは秒速40センチ、それ以降は秒速10センチでリュウグウへ近付いていく。22日午前6時ごろに、着陸するかどうかの最終判断が実施され、着陸を目指すと判断されれば最後の「GO」の指令がはやぶさ2へ送られる。

 はやぶさ2は高度45メートルまで降下すると、いったんその高度にとどまり、既に投下されているターゲットマーカーを探す。ターゲットマーカーを見つけられれば、さらに高度8・5メートルまで降下する。そこで、着陸地点の小惑星表面の傾斜と平行になるように探査機の姿勢を変え、ターゲットマーカーをカメラでとらえながら、着陸地点の真上付近まで5メートルほどに水平移動する。そこで姿勢が安定していることが確認されれば、ほぼ下方向へエンジンを噴き、あとは自由落下で着陸する。

 サンプラーホーンが小惑星表面に触れると、重さ5グラムの弾丸を発射し、小惑星表面の石を砕く。勢いで跳ね上がった石の粒はそのままサンプラーホーンの中を上昇し、はやぶさ2の収納容器に運ばれる。はやぶさ2がリュウグウに着陸している時間は数秒程度と一瞬で、弾丸の発射後は速やかに上昇する。ここまでの一連の流れが順調に進めば、リュウグウの物質の採取が成功したことになる。

探査機はやぶさ2の着陸について説明する津田雄一・プロジェクトマネジャー=東京都千代田区で2019年2月6日、永山悦子撮影

津田プロマネ「計画に沿って遂行すれば必ず成功」

 津田さんは「最初は、よりによってなぜリュウグウがこんなに厳しいのかと、引きの悪さを感じた」と振り返る一方、「従来の着陸方法では歯が立たないことが分かったので、リュウグウという天体の情報をより詳しく、より正確に知ることに注力した。地図の改良によって、求められる精度をより正確に検討できるようになった。その結果、リュウグウの牙の形状が見えてきて、リュウグウに立ち向かう攻略法が分かった。着陸を成功させることは、気合とか意気込みだけではできない。計画に沿ってきちんと進めることを頑張りたい」と話す。

 成功への自信はいかに。津田さんはこう言う。「計画に沿って間違いなく遂行すれば、工学的には成功すると考えている。着陸地点を1カ所に決め、やり方も確定したので、今後は、チーム全体の頭の温度を下げて、クールにやりきりたい」

 先代のはやぶさの経験、そして、2014年の打ち上げ以降、はやぶさ2を運用してきた数々の経験が蓄積され、プロジェクトチームの知見も技術も成長してきたといえるだろう。いよいよ直径わずか6メートルの円内を目指して、プロジェクトチームの総力をつぎ込んだ、針の穴に糸を通すような極めて精密な運用が始まる。

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