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デーリー通信

(26)秀作ぞろいで混戦 第91回アカデミー賞、候補作の見どころ

今年1月のゴールデン・グローブ賞の授賞式を前に「クイーン」のブライアン・メイさん(左)とロジャー・テイラーさん(右)と再会した中島由紀子さん=中島さん提供

 米映画界で最高の栄誉とされる第91回アカデミー賞の発表・授賞式が2月24日(日本時間25日)にロサンゼルスで開かれる。今年はコミック原作や動画配信の映画が初めて作品賞にノミネートされるなど、多様な候補が選ばれた。前哨戦のゴールデン・グローブ賞の投票権を持つハリウッド外国人記者協会員で映画ライターの中島由紀子さんに作品賞の行方や候補作の見どころを聞いた。【長野宏美】

「クイーン」が1975年4月に初来日した時に東京都内で撮影された写真。左から通訳を務めた中島由紀子さん、ロジャー・テイラーさん、ブライアン・メイさん、右端がジョン・ディーコンさん=中島さん提供

 作品賞候補は8本。中でも英ロックバンド「クイーン」の軌跡を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」は日本でも興行収入が100億円を超え、大ヒットした。中島さんは「個人的な思い入れがある」という。1975年4月に「クイーン」が初来日した時、通訳として2週間同行したからだ。「1枚だけ当時の写真が残っている」と見せてくれた写真には、中島さんとメンバーが並んでいすに座っていた。この写真にはボーカルの故フレディ・マーキュリーは写っていないが、映画にも登場する彼の当時のガールフレンドのメアリーにお土産を買うため、東京・表参道にある土産物店に一緒に行ったという。結局、この店では何も買わなかったが、フレディは「僕にはすごくかわいいガールフレンドがいる」とメアリーの話をしていて、「本当に彼女のことが好きだと感じた」と振り返る。

 当時の「クイーン」は世界で爆発的な人気が出る前だったが、「僕たちはビートルズかな」と驚くほど日本で熱烈なファンの歓迎を受け、親日家になったという。メンバーはホテルの部屋で中島さんらとトランプを楽しむことも多かった。振る舞いがとても紳士的だと感じたので、そう伝えると、「behave yourself(行儀を良くしろ)」と来日前に助言を受けたと話していたそうだ。日本と欧州は文化や慣習も違うので、異文化を尊重するよう心がけていると感じた。

 今年1月のゴールデン・グローブ賞の授賞式にはギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーも出席し、前日に中島さんと再会した。44年前に日本でお土産にもらった剣玉をまだ大事に持っていると話していたという。ゴールデン・グローブ賞ではドラマ部門の作品賞を受賞し、マーキュリー役を演じたラミ・マレックが主演男優賞に選ばれた。

 中島さんにとって「ボヘミアン・ラプソディ」は特別で「大好きな作品」だが、アカデミー賞作品賞は、ともに最多10ノミネートを受けたメキシコの白黒映画「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)と「女王陛下のお気に入り」(ヨルゴス・ランティモス監督)の争いになると予想する。今年は秀作ぞろいの混戦だが、「アカデミー賞は社会的なメッセージがある映画が強い」ため、その2強を「ブラック・クランズマン」(スパイク・リー監督)が追う展開だとみる。

 映画取材歴40年を超える中島さんの評価と、4年前のロサンゼルス赴任をきっかけに映画好きになった私の一言を紹介する。

「ボヘミアン・ラプソディ」の映画写真=(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

「ボヘミアン・ラプソディ」(ブライアン・シンガー監督)、18年11月に日本公開

<ボーカルのフレディ・マーキュリーの半生を通し、「クイーン」の軌跡を「キラー・クイーン」など数々の名曲とともに描いた作品>

 メンバーのブライアン・メイが作品にかなり目を光らせ、少しでも違うと指摘したそうです。だから、映画を見ていてどこにも違和感がなかった。何より主演のマレックの演技がすばらしく、フレディになりきっていた。よくみれば顔も体つきも違うけれど、フレディの気むずかしさなども再現し、まさに本人を見ているようだった。彼に主演男優賞を取ってほしい。クイーンの音楽は「伝説のチャンピオン」など、聞く人を取り込む。映画で流れる曲をお客さんが一緒に歌えて、盛り上がるところも人気につながったと思う。ただ、作品賞の受賞はないのではないか。エンターテインメントとしてはいいが、賞を取るほどの評価はしていないという批評家が少なくないからだ。

 (記者の一言)クイーンの曲は中高生時代から知っていたが、メンバーやバンドのことは何も知らず新鮮だった。映像付きのコンサートに行くような楽しさはあるが、アカデミー賞では娯楽性はあまり重視されないので、作品賞は厳しいと思う。

「ROMA/ローマ」の映画写真=Netflixオリジナル映画

「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)、Netflixオリジナル映画で独占配信中

<1970年代のメキシコを舞台に中流家庭とその家政婦の日常を描いた監督の自伝的物語。全編スペイン語の白黒映画>

 これ以上の映画を作るのは大変だと思うほど、レベルが高い。特別なことが起きて解決するわけではなく、そこに生きている人の日常を淡々と描いているのに吸い込まれる。家族がいかにお手伝いさんを大事にしているかもうまく描かれていた。監督が撮影も担当し、影の使い方や画面の作り方、ライティングの変化で登場人物の悲しみなどが伝わる。だから白黒映画にしたのだと感じた。最初は淡々と進むので、昨年のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を取ったのは過大評価ではないかと思ったが、途中からどんどん引き込まれ、身を乗り出して見た。

 (記者の一言)見終わって振り返るとすばらしい作品。序盤は説明がなく、子供時代のキュアロン監督の目線で進むので、大人たちに何が起きているのか良く理解できない。後半、大人の目線から見て初めて、母親や家政婦が抱えていた問題や当時の争乱がわかった。

「女王陛下のお気に入り」の映画写真=(C)2018 Twentieth Century Fox

「女王陛下のお気に入り」(ヨルゴス・ランティモス監督)、2月15日に日本公開

<18世紀初め、17人の子供に先立たれた英国の孤独な女王と、そのちょう愛を取り合う2人の側近女性の物語>

 「ROMA/ローマ」がなければ、これが候補作の中で一押し。ランティモス監督はこれまでの作品でも、ツイスト(ひねり)を持たせながら、じっくり見せる作風で、今回もまっすぐではない描き方をしている。題材となっている当時の英王室のおかしなところを露骨ではないがうかがわせているところも奥深い。画面もきれいで、配役もすばらしい。主演のオリビア・コールマンは不幸な女王役だが、どこにも幸せ感がなく、すきがない演技だった。女王の側近を演じたレイチェル・ワイズと(そこに割って入る)エマ・ストーンの戦いも見もので、「女は怖い」と感じさせる。

 (記者の一言)2人の側近のどちらが蹴落とされるのか。「女の戦い」に最後まで目がくぎ付けになった。2年前に「ラ・ラ・ランド」で女優を夢見る愛らしい役を演じ、主演女優賞を受賞したエマ・ストーンの今作での「悪女」ぶりがあっぱれだった。

「ブラック・クランズマン」の映画写真=(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

「ブラック・クランズマン」(スパイク・リー監督)、3月に日本公開

<1970年代の米西部コロラド州で、その街で初めての黒人警官が白人警官と協力し、白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入捜査する物語>

 リー監督の映画が作品賞候補になるのは初めてだが、監督の成熟を感じた。過去の作品では「黒人よ、がんばろう」というメッセージが強すぎて、鼻につくこともあったが、今回はいつもの力みがなかった。ユーモアを交え、黒人差別だけでなく、「KKK」の偏りやユダヤ人差別などもバランス良く描いていた。主演の黒人警官役を演じたジョン・デビッド・ワシントンは俳優デンゼル・ワシントンの息子だが、育ちの良い気張りのなさが怖いもの知らずの役ににじみ出ていた。外見が父親のデンゼルに似ていたら「二番せんじ」と言われかねないが、似ていないのが良かった。ゴールデン・グローブ賞の授賞式にはデンゼルら一家で出席しており、主演男優賞にノミネートされた息子の活躍を家族みんなが喜んでいるのを感じた。

 (記者の一言)最初から最後までテンポが良くておもしろい。人種差別という重いテーマを、肩の力が抜けた主演の「ゆるい」演技で展開させていくところがうまい。しかも実話を元にしている。作品賞の下馬評は「ROMA/ローマ」だが、これに取ってほしい。

「ブラックパンサー」の映画写真=(C)Marvel Studios 2018

「ブラックパンサー」(ライアン・クーグラー監督)、昨年3月に日本公開

<世界から隔絶された架空の超文明国ワカンダの国王だった父を失った息子のブラックパンサーが国の秘密を守るため、世界中の敵と戦う物語>

 アメコミ(米国の漫画作品)には社会的なメッセージがあるのだが、この作品は黒人が搾取されてきた歴史など、現代に合ったメッセージがあった。主演を含め出演者のほとんどが黒人俳優というのもセンセーショナルに新しい。数年前までは黒人の映画は当たらないと思われ、作られることも少なかった。衣装もきれいで、俳優の演技や監督もすばらしく、ハリウッドの黒人たちがこれをチャンスに最高の映画を作ろうという意欲も伝わってきた。人種の壁を超えて黒人以外にも受け入れられ、時代が変わったと感じる。このヒーローは簡単には強くならない。いまだに肌の色で差別される人たちや弱い立場の人がこれを見て勇気づけられており、そういう前向きなエネルギーのある映画はいいと思った。「ブラックパンサー」のノミネートは、多様性を重視する改革を進めてきたアカデミーが本当に変わったと感じさせるが、受賞まではいかないのではないか。

 (記者の一言)物語、衣装、映像、音楽、俳優の演技、すべてが楽しめた。ロサンゼルスでも公開直後から大ヒットし、劇場が満席続きだった。黒人以外の多様な人種の観客がいて、白人以外が主演の映画を受け入れる社会になっていると感じた。

「バイス」の一場面=(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.

「バイス」(アダム・マッケイ監督)、4月5日に日本公開

<ブッシュ(子)政権で副大統領を務め、2001年の同時多発テロの危機対応などにあたり、「影の大統領」と言われるほどの影響力を発揮したディック・チェイニー氏の伝記映画>

 政治がいかに作られているかを感じ、これを見ると何も信じたくなくなる。チェイニー元副大統領(共和党)が嫌な男に描かれている。裏で政治を牛耳る黒幕だというのはある程度は知られていたが、それを画面で出すとなると不正確だと訴えられかねない。偏っているので製作資金を出さないとか、反対派に危害を与えられるとか、危険なこともあると思うが、監督は自分のスタンスを貫いている。こういう(政治を批判する)映画を作れるところに言論の自由を尊重するアメリカの良さを感じる。ニュースでもトランプ大統領に対して「悪いものは悪い」とたたいている。賛成かどうかは別にして、そういう姿勢がこの映画にも出ていた。ハリウッドはリベラルだが、隠れリパブリカン(共和党員)も結構いるので、作品賞の受賞まではいかないと思う。

 (記者の一言)自分の利益を追求したチェイニー元副大統領を始はじめ、政治家を痛烈に批判しているが、「誰を選ぶかが大事だ」という有権者への強いメッセージを感じた。20年にトランプ大統領が再選を目指す大統領選を控える米国に限らず、普遍性がある。今、一番見てほしい映画。

「グリーンブック」の映画写真=(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

「グリーンブック」(ピーター・ファレリー監督)、3月1日に日本公開

<1960年代の米国で、イタリア系の用心棒が渋々黒人の天才ピアニストの運転手を引き受け、黒人差別の強かった南部を旅することで心を入れ替えるコメディー>

 ストーリーは白人の老婦人と黒人運転手の物語「ドライビング・ミス・デイジー」(1990年のアカデミー賞作品賞受賞)のようで、ナッシングニューだ(目新しさはない)。でも、白人運転手役のビゴ・モーテンセンと黒人ピアニスト役のマハーシャラ・アリの演技がうまく、この2人だから映画がおもしろくなっている。アリは言葉ではなく、目と表情で感情を表現する。ビゴはキャラクターの変わり方がうまかった。黒人のことをただ知らなかっただけで、(差別主義者ではなく)悪い人ではなかったという変化だ。トランプ大統領はメキシコ移民を「レイプ犯」と言うが、(人種をもとに差別するような)そういうことを大統領が承認する時代だからこそ、この映画は古くないと思わせる。

 (記者の一言)黒人だという理由で、ひどい仕打ちを受けるシーンを見るたびに憤りを感じた。法律上は差別が撤廃されたが、トランプ時代は差別的な社会に逆戻りしている。その危機感をコメディーで描いたうまさもあり、候補作で一番好きだった。

「アリー/スター誕生」の映画写真=(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

「アリー/スター誕生」(ブラッドリー・クーパー監督)、昨年12月に日本公開

<レディー・ガガ演じる女性歌手が人気歌手に才能を見いだされ、スターへの階段を上る物語>

 試写会で30代の女優が「しばらく口がきけなかった」と絶賛していた。若い世代は「今年の最高傑作」と評価しており、私がバーブラ・ストライサンド主演の1976年版「スター誕生」を見た時のような感動を味わっているのだと思う。リメークなので、私は当時のようなフレッシュさを感じなかった。ガガが自分とは違う人物役なのだが、どうしてもそこにいるのはガガだという印象も強かった。クーパーはもともと多彩でうまいが、すごい役者だと思った。ミュージシャンならステージのシーンがすごいのは当たり前だが、クーパーは歌手ではないのになりきっていた。彼が主演男優賞を取ったとしても反対しない。

 (記者の一言)私は別の俳優が演じた過去の「スター誕生」を見ていないので新鮮だった。ガガの歌声や全身から放つ存在感に圧倒された。息づかいまで伝わるほど近いカットで撮影し、彼女の魅力を存分に見せたクーパー監督が監督賞候補に選ばれず残念。

長野宏美

2003年入社。水戸支局、社会部、外信部を経て2015年4月から現職。社会部時代は警察庁や裁判員裁判などを担当。2008年の北京五輪を現地で取材した。元プロテニスプレーヤーで、1995年全日本選手権シングルス3位、ダブルス準優勝。ウィンブルドンなど4大大会にも出場した。

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