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ベルリン映画祭便り2019

理不尽な女性差別… 伝統や権力を笑い飛ばす批判精神に拍手喝采(4日目)

会見の後、気軽に記念撮影に応じる主演のゾリカ・ヌシェバさん(中央)。映画ではタフでたくましい女性を演じたが、会見では物静かで、穏やかに話す姿が印象的だった=ドイツ・ベルリンで2019年2月10日、小林祥晃撮影

 ベルリン国際映画祭は10日で4日目となります。これまで会場には歩いて通っていたのですが、この日から地下鉄「Uバーン」を使うことにしてみました。というのも、Uバーンは、ベルリン中心部では地下の浅いところを走っていて、入り口からホームまでが近く(感覚的には地下2階くらいの深さ)、しかも改札がないのです。

     もちろん、切符を買わなければいけないのは当然ですが、東京の地下鉄のようにホームにたどり着くまでに何度も階段を下りたり、エスカレーターに乗ったりする必要がなく、さっさと乗れます。メイン会場の最寄り駅まではわずか2駅で、待ち時間を含むと数分ではありますが、時間短縮になるし、何より雨風にさらされないので快適だと思ったのです。

     さて、前置きが長くなりましたが、今日コンペティション部門で上映された映画で、会場から拍手喝采された作品がありました。マケドニアのテオナ・ ストゥルガー・ミテフスカ監督の「God Exists, Her Name is Petrunija」です。直訳すると、「神は存在する。その名はペトルニージャ」といったところでしょうか。宗教や伝統の中にある理不尽な女性差別をテーマにした社会派の風刺ドラマです。

     ペトルニージャは、ヒロインの名前。マケドニアでは毎年、地域の教会のリーダーが川に投げ入れた十字架を、男たちが川に飛び込んで拾う宗教的な祭りがあるそうです。十字架を手にすることは、栄誉なことで、男は競って十字架を奪い合います。ところが、そこに居合わせたヒロインが衝動的に川に飛び込み、十字架を手にしてしまい、騒動が起こります。

     ヒロインが思わぬ展開に興奮していると、一人の荒くれ者が「お前は女だろ、よこせ」という感じで十字架を奪ってしまう。「それは私のだ」「おれがもらった、今年のヒーローはおれだ」ともみ合いが続きます。しかし、たくましいヒロインは十字架を奪い返して、家に逃げてしまうのです。

     町中が「あの女は誰だ?」「捜せ」と大騒ぎになります。そして、一部始終を女性記者率いるテレビクルーが取材していたことから、話がさらに大きくなります。女性記者は「どうして女性が取ってはいけないのか。誰が決めたのか。女性差別だ」と問題視する。そんな中、ヒロインはとうとう逮捕されてしまうのです。

     こう書くと、まじめなドラマのようですが、コミカルな要素も含まれていて、機転の利くヒロインが間抜けな警察署長をやり込めたりもして、大笑いさせられる場面も多数あります。根底に、伝統や権力というものを徹底的に疑い、笑い飛ばす批判精神が込められているのです。

     見ながら思い出したのが「大相撲の土俵に女性が上がってはいけない」というしきたりの問題です。昨年も論争になりました。私は「伝統は時代とともに変えればいい」と考える立場ですが、同じような問題はどこの国にもあるのだなあと改めて痛感させられました。

     ペトルニージャというヒロインがとても魅力的でした。彼女は32歳独身。太っているのがコンプレックスのようです。大学で歴史学を学んだ才女ですが、仕事はなく、家でだらだらして、母親と衝突ばかりしています。そんなヒロインの境遇に注目すると、また別の共感がわき上がってもくる。なじみのない国のなじみのない宗教行事がテーマでありながら、とても普遍性の高い物語になっていると、うなりました。

     女性をテーマにした映画があると、ハリウッド発の反セクハラ運動「#MeToo」の影響をどうしても考えてしまいます。しかし、この作品を見ていると、この世の女性たちはさまざまな「女人禁制」に対して、本当に我慢をさせられてきたのだなと感じます。そして「#MeToo」は一時的なムーブメントではなく、起こるべくして起こった社会変革なのだ、と納得させられます。

     社会に残る男女差別の「壁」。この壁は崩れつつあるように見えますが、壁は社会のあらゆるところに、目に見えない形で残っています。すべてが崩れるまで、粘り強く、闘わなければ行けないのかも知れません。その闘いには女性だけでなく、もちろん男性も加わらなくてはいけないのでしょう。【小林祥晃】

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