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首相の自衛官募集発言 事実の歪曲で憲法語るな

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 また安倍晋三首相が憲法に関して奇妙なことを言い始めた。自衛官募集に協力しない自治体があるから憲法改正が必要だという論理だ。

 首相は自民党大会の演説で「新規隊員募集に対して都道府県の6割以上が協力を拒否している」と語り、「憲法にしっかりと自衛隊と明記して違憲論争に終止符を打とうではありませんか」と呼びかけた。

 「都道府県の6割以上」というのは間違いだ。自衛官募集に使うため18歳など適齢者の名簿提供を求める対象は全国の市区町村だからだ。首相も国会で発言を修正した。

 自衛隊法施行令は、防衛相は自衛官募集に必要な資料の提出を自治体に求めることができると規定する。ただ法令上、自治体側に名簿提供の義務はない。このため2017年度に紙や電子媒体で名簿を提供した市区町村は全体の36%にとどまる。

 その代わり、名簿を提供していない自治体のほとんどが自衛隊側に住民基本台帳の閲覧を認めている。台帳を閲覧して氏名や住所を書き写す自衛隊側の手間はかかるものの、住民の個人情報について慎重な取り扱いが求められる自治体側の対応としては理解できる。

 これを含めれば、自衛隊は9割の市区町村から個人情報の提供を受けていることになる。首相の言う「協力を拒否」は事実を歪曲(わいきょく)している。

 首相発言について石破茂元防衛相は「憲法違反なので募集に協力しないと言った自治体は寡聞にして知らない」と語った。自衛隊を憲法に明記したら自治体の協力が進むかのような首相の主張は詭弁(きべん)に等しい。

 演説で首相は、地方自治体から災害派遣要請があれば命がけで出動するのが自衛隊だと強調した。だから自治体側は募集に協力すべきだというのも論理のすり替えだ。

 全国的に自衛官の確保が難しくなっているのは事実だ。主な要因は少子高齢化であり、憲法ではない。自衛隊は採用年齢の上限引き上げなど地道な取り組みを続けている。

 首相はこれまでも「憲法学者の7割以上が自衛隊を違憲と言っている」ことを改憲理由に挙げてきた。事実関係のあやふやな根拠を立てて情緒に訴える論法は今回も同じだ。

 一国の首相が事実をねじ曲げて憲法を語るべきではない。

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