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世界銀行のトップ選び 「米国ありき」は時代遅れ

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 第二次世界大戦後の74年間に、世界は様変わりした。では、終戦と共に始動した世界銀行はどうか。

 活動内容は戦後の復興支援から途上国開発、さらに気候変動への取り組みなどへと進化・多様化した。

 だが不動のものもある。トップの総裁は米国人、という慣習である。

 初代以来12人全員が米国出身だ。分け合うように、もう一つの国際金融機関、国際通貨基金(IMF)は欧州出身者がトップに就いてきた。

 そして今、再び米国人が次の世銀総裁に決まろうとしている。

 12代総裁のジム・ヨン・キム氏が3年の任期を残して辞任したのを受け、後継者選びが始まった。トランプ米大統領が早速デービッド・マルパス財務次官を候補に指名したが、対抗馬は今のところ現れていない。立候補の締め切りは来月中旬だ。

 人物本位で選ばれた結果ならば、たとえ米国人が連続で就任しても問題とは言えまい。しかし、出身国で当然のごとく決まるというのはさすがに時代遅れではないか。

 今回はトランプ大統領による人選である。大統領と考えが近いとされるマルパス氏は、世銀に代表される国際機関を、「肥大化し過ぎ」などと批判してきた。就任すれば、「効率化」の名の下で、トランプ政権が否定的な気候変動がらみの事業などが縮小される懸念がある。

 トランプ政権を国際機関につなぎ留める上で、政権の推す人物を迎えるのは得策、との意見もあるようだ。しかし、地球規模の課題に多国で取り組む組織が、強権的で一国利益主義をうたう指導者に左右される前例を作れば禍根を残すだろう。

 世銀にはもう一つ「相変わらず」の慣行がある。総裁が全員男性というものだ。女性の候補を本気になって検討すべき時だろう。

 米国の影響力が強いとはいえ、出資比率に応じて決まる投票権は相対的に低下し、16%を切った。2位は6・8%強の日本だ。マルパス氏から支持を要請された麻生太郎財務相は、前向きな姿勢を見せつつ、記者団に「どのような候補者が出るか分からない」とも語った。

 事なかれの追認ではだめだ。女性も含む候補を広く募り、考えや実績を比較して選出する組織へ脱皮しなければ、世銀は信用を失う。

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